「ナイスタイミング!」

「そりゃ、そうなるように仕掛けたんだから。肉じゃがはもう少しね」

「じゃ、そろそろ皿とか並べた方がいい?」

「お願い。あ、しゃもじ、ここにあるよ」

 私たちは、手分けして食べる準備を始める。他の班もそれぞれ食事が完成したらしく、同じように食べる準備を始めた。

 家庭科室が、いろんな匂いでいっぱいになる。がやがやと賑やかなこの感じ、あれだ。ファミリーレストラン。


「んー、おいしそう」

 竹内さんが、鼻をくんくんさせてフライパンに近づける。

「和食って、もっと時間かかるイメージあったけど、意外にさくっとできちゃうのね」

「他のとこで和食ってあったっけ?」

「四班が、ちらしずし作ってる」

「あー、あれもうまそう」

 長谷部君が首を伸ばして他の班を眺めた。


 今日の調理実習のテーマは、『うちの夕ご飯』だ。他のとこは、オムライスとかパスタとかの洋食が多い。どれも工夫をこらして美味しそうに出来上がっている。うちの班は、長谷部君の強い希望により、肉じゃがになった。なんでも、和食が好きなんだと。


「そろそろいいかな」

 私は、フライパンの落し蓋をあけて、そこにあったおいもを半分に割る。その一かけらを冷ましてから口に放り込んだ。

「ん、おいし」

 うまく味しみるかな、と思ったけど、小さくしたのがよかったみたい。うちで作る時には、半分くらいの大きさのまま煮ちゃうのが好き。でもそれだと、時間がかかってしまう。


「おいし。炒めて煮るだけなんて、肉じゃがってこんなに簡単なものだったんだね」

 同じように味見をしていた竹内さんが、感心したように言った。

「早くできるように小さく切ったし、油で炒めると味がしみやすいのよ。カロリーは高くなるけどね」

「じゃあ、ダイエット向きじゃないわね」

「作り方によるんじゃないかな。じっくり煮て炒めないやり方も……」

「うまそー」

 いきなり耳元で聞こえた声に、ぎょっとして振り返る。

「上坂!?」

「よ。俺にも一口」

 そこには上坂が、あーん、と口をあけて立っていた。


「調理実習なんだから、あんたの分はないわよ」

「いいじゃん。今日は美希の弁当食えなくて物足りないんだよー」

「学食でもどこでも、行けばいいでしょ」

「冷たいなー。このうまそうなほかほか肉じゃがの前を素通りしろと? 無理無理。ね、俺も、ここで食べていい?」

「いいわけ……!」

「いいわよー、蓮君には私の分、少し分けてあげるから」

 竹内さんが、嬉しそうに上坂に言った。


「ありがと、貴美。じゃあ、今度俺のチョコパフェ分けてあげる」

「えー? そう言いながら、蓮君は自分でみんな食べちゃうからなあ」

「俺、貴美にも弱いけど、甘いものにも弱いのよ」

 まるでバカップルのような会話を白けた気持ちで聞く。

 そーか、竹内さんも上坂のファンだったのか。

 基本的に、女子は上坂に対して甘い。というのは、私の偏見かもしれないけど。


「お前、飯ないのかよ」

 長谷部君は、人数分のはしを数えていた手を止めて聞いた。

「ないのー。めぐんで」

「いいけどよ。少し多めに飯たいてあるから」

 運動部の長谷部君は、残ったご飯でおにぎりを作って、クラブの前のおやつにするつもりだったらしい。和食というよりきっと、ご飯が好きなんだな。