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 上坂は、案外とまめなやつだった。

 朝、家に迎えに来てくれて、昼は一緒にお弁当を食べて、帰りは一緒に帰る。この一週間、毎日私たちはそれを繰り返していた。まるで本当のカップルみたいに。

 あんなのと一緒にいて何を話せばいいんだろうと思ったけど、上坂は意外に話がうまかった。ちゃんと私の言葉を拾ってくれるので、思ったより話は途切れない。突き刺さってくる女子達の視線をのぞけば、私たちは予想外にうまくやっていた。


 そうして一週間たった金曜日。今日は三時間目から昼休みにかけてが家庭科の調理実習なので、お昼がようやく別々になった。


「で、明日はまたデート?」

 冴子が人参の皮をむきながら聞いてきた。私は、玉ねぎの外皮をむいている。

「ううん、さすがに来週は月曜から中間考査だから、土日は勉強したいの。だから、今週はデートはなし」

「今週は、てことは、来週はデートなんだ」

「一応、そういうことになっている」

 一つため息をついて答える。

「でも、思ったより風当たりが強くないのよね」

 私は、二つ向こうのテーブルにいる青石さんの方をちらりと眺めた。


 青石真奈美。以前、上坂とつきあってたことがあって、今でも上坂が遊び歩くグループには入っているはず。

 つきあっていた時からものすごく嫉妬深くて、当時、女子が上坂と話でもしようものなら、ものすごい目で睨まれて悪口を言われたものらしい。

 当の上坂はそれを知ってか知らずか、それでも別の女の子とほいほい遊び歩くものだから、青石さんの嫉妬は留まるところを知らず、一時は、上坂が自分の近くを通るたびに女子は相当びくびくしてたものだと聞いた。
 
上坂にちょっかい出した下級生がかなりシめられた、って話も聞いたことがある。だから、上坂と私が付き合っているなんて話になったら、絶対何か言われると思ったのに。


「何もされてないの?」

 何も言われてない、じゃなくて何もされてない、って聞かれるあたり、なんかすごく怖い。

「今のところは」

「それはそれで、かえって不気味ね」

「このまま何もなく一ヶ月が過ぎてくれれば、それにこしたことはないわ」

 私は、玉ねぎをざくざくと切りながら答えた。うう、目にしみる。


「梶原さん、上手ねえ」

 私の手元を見ながら、竹内さんが感心したように言った。

「うち、私が料理当番なこと多いから」

「へー、慣れてるわけだ。あ、玉ねぎ切れたらちょうだい。私、炒めるから」

「うん、そこに切ってあるジャガイモと人参も一緒にね。あ、長谷部君! 糸コンそんなに煮ちゃだめ!」

「え? もういい?」

「いい、いい。軽く洗ったら、食べやすい長さに切って」

 私は、刻んだ玉ねぎを竹内さんに渡して、まな板と包丁を洗い始めた。


 私たちの班のメニューは、肉じゃがとグリーンサラダ、それになすと油揚げのお味噌汁だ。

 材料を炒めたフライパンに水を入れる。そこに山口が、真剣な顔で調味料を入れ始めた。

「砂糖と、しょうゆ……」

 その間に私たちは、グリーンサラダに取り掛かった。ドレッシングをかき混ぜて、サラダをお皿に盛り付けて……

 ちょうどご飯が炊けたところで、三限終了のチャイムが鳴る。本当は、ご飯炊くなら鍋を使うように言われたんだけど、二つしかないコンロが肉じゃがとお味噌汁でうまってしまったので、炊飯器を使うことを許してもらった。