「ん! うまっ! これ、甘い卵焼きだ」
「苦手だった?」
「ううん、大好き」
もぐもぐと幸せそうに食べる上坂に、思わず頬が緩む。上坂のために作ってきたわけじゃないけど、自分の料理をおいしいって言ってもらえたら、やっぱり嬉しい。
「俺、子供味覚なのかな。ハンバーグとか甘い卵焼きとか好きなんだよね」
「ふーん」
「ね、ね、こっちの肉巻きも食べていい?」
あまりにその顔が嬉しそうなので、ついつい言ってしまった。
「……よかったら、食べる? まだ手つけてないし」
私がお弁当を差し出すと、上坂は目を輝かせた。
「いいの?」
「こんなもので良ければ。その代り、そのカツサンド、ちょうだい」
普段はお弁当持ちだから、なかなか購買のパンって食べる機会がない。たまにお弁当を持ってこない日でも、噂のそのカツサンドに今までありつけたことはなかった。
「おっけー! んじゃ、トレードね」
軽く言った上坂は、私からお弁当を受け取ってカツサンドと交換する。
私は、長年ひそかに憧れていたカツサンドの包みを開けた。ふわりと、ソースの香りが広がる。
ほおー、これが……
早速一口。じゅわっと衣に絡んだソースが口に広がった。そのソースがくどくなりすぎないのは、一緒にたっぷりと入っている新鮮なキャベツのおかげだ。分厚いヒレカツは、適度な歯ごたえがあって甘さすら感じる。やわらかいパンと一緒に、それらが口の中で絶妙なハーモニーを醸し出した。もちろん、パンの美味しさも申し分ない。
確かにこれは絶品。うん、美味しい!
「ふーん……」
「ん?」
気が付くと、上坂がにやにやしながら私を見ていた。
「何?」
「いや、なんでも」
そう言って上坂は、また私のお弁当を食べ始めた。
「え、このきゅうりの漬物、これも美希が作ったの」
「そんなの、作ったっていうほどのものでもないわよ」
「この人参、チーズ味なんだ。うまー!」
一つ一つのおかずに騒ぎながら、上坂はあっという間にお弁当を平らげてしまった。
「ごちそうさま。美味かった!」
きちんと手を合わせて上坂が言った。お弁当箱の中には、ご飯粒一つ残ってない。礼儀正しいこと。
「お粗末様でした。量、足りた?」
もともと私のお弁当だったから、男子には少し物足りないんじゃないだろうか。
私がそう聞くと、ストローをくわえたままの上坂がちらりと私を見た。
「そうだな……じゃ、一口」
「え?」
言うが早いか、上坂は私が食べていたカツサンドにぱくりと食いついた。
「!!」
「やっぱ購買のカツサンド、美味いよね」
た、食べ、かけ……! 私の……!
「ね、美希」
「何よ」
動揺を悟られないように、極力平静を装って答える。
「俺にも、弁当作ってよ」
顔を上げると、にっこりと、邪気のない笑顔で上坂が言った。
「毎日パンや学食じゃ飽きるからさ。美希の料理、気に入った。だから、作って」
「お家で作ってもらえばいいじゃない」
「あー、だめだめ。うちのは弁当なんてつくんないし」
「じゃ、家政婦さんに……」
「美希」
ずい、と上坂が顔を近づけてきた。
「美希の手料理が、食べたい。俺のために、作ってよ」
「苦手だった?」
「ううん、大好き」
もぐもぐと幸せそうに食べる上坂に、思わず頬が緩む。上坂のために作ってきたわけじゃないけど、自分の料理をおいしいって言ってもらえたら、やっぱり嬉しい。
「俺、子供味覚なのかな。ハンバーグとか甘い卵焼きとか好きなんだよね」
「ふーん」
「ね、ね、こっちの肉巻きも食べていい?」
あまりにその顔が嬉しそうなので、ついつい言ってしまった。
「……よかったら、食べる? まだ手つけてないし」
私がお弁当を差し出すと、上坂は目を輝かせた。
「いいの?」
「こんなもので良ければ。その代り、そのカツサンド、ちょうだい」
普段はお弁当持ちだから、なかなか購買のパンって食べる機会がない。たまにお弁当を持ってこない日でも、噂のそのカツサンドに今までありつけたことはなかった。
「おっけー! んじゃ、トレードね」
軽く言った上坂は、私からお弁当を受け取ってカツサンドと交換する。
私は、長年ひそかに憧れていたカツサンドの包みを開けた。ふわりと、ソースの香りが広がる。
ほおー、これが……
早速一口。じゅわっと衣に絡んだソースが口に広がった。そのソースがくどくなりすぎないのは、一緒にたっぷりと入っている新鮮なキャベツのおかげだ。分厚いヒレカツは、適度な歯ごたえがあって甘さすら感じる。やわらかいパンと一緒に、それらが口の中で絶妙なハーモニーを醸し出した。もちろん、パンの美味しさも申し分ない。
確かにこれは絶品。うん、美味しい!
「ふーん……」
「ん?」
気が付くと、上坂がにやにやしながら私を見ていた。
「何?」
「いや、なんでも」
そう言って上坂は、また私のお弁当を食べ始めた。
「え、このきゅうりの漬物、これも美希が作ったの」
「そんなの、作ったっていうほどのものでもないわよ」
「この人参、チーズ味なんだ。うまー!」
一つ一つのおかずに騒ぎながら、上坂はあっという間にお弁当を平らげてしまった。
「ごちそうさま。美味かった!」
きちんと手を合わせて上坂が言った。お弁当箱の中には、ご飯粒一つ残ってない。礼儀正しいこと。
「お粗末様でした。量、足りた?」
もともと私のお弁当だったから、男子には少し物足りないんじゃないだろうか。
私がそう聞くと、ストローをくわえたままの上坂がちらりと私を見た。
「そうだな……じゃ、一口」
「え?」
言うが早いか、上坂は私が食べていたカツサンドにぱくりと食いついた。
「!!」
「やっぱ購買のカツサンド、美味いよね」
た、食べ、かけ……! 私の……!
「ね、美希」
「何よ」
動揺を悟られないように、極力平静を装って答える。
「俺にも、弁当作ってよ」
顔を上げると、にっこりと、邪気のない笑顔で上坂が言った。
「毎日パンや学食じゃ飽きるからさ。美希の料理、気に入った。だから、作って」
「お家で作ってもらえばいいじゃない」
「あー、だめだめ。うちのは弁当なんてつくんないし」
「じゃ、家政婦さんに……」
「美希」
ずい、と上坂が顔を近づけてきた。
「美希の手料理が、食べたい。俺のために、作ってよ」