第一印象って、とっても大事だと思うのよ。
 「初頭効果」って言うらしいよ?

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 紺色のリクルートスーツに袖を通した私は、緊張の面持ちで鏡の前に立つ。寝癖がないように、いつもより念入りに髪の毛を整えた。
 このリクルートスーツは学生時代に就職活動で使った物だから、袖を通すのは5年ぶりだ。ウエストのホックがきちんと閉まったことに、ちょっとだけホッとした。

 あの日、アポイントも取らずに採用希望だと主張したにも関わらず、私を対応した男性──尾根川さんは嫌な顔一つせずに店の奥に確認しに行ってくれた。爽やかな見た目通り、とても親切な人だ。そして、私はあの場で採用面接を受けることになり、あれよあれよと言う間に採用が決まった。まさかあそこで仕事が見つかるなんて思っていなかったので、まさに棚からぼた餅である。

 今日はその新しい職場への初出勤日だ。

 只でさえ、私は普段着姿でアポ無し突撃と言う非常識な採用経緯だった。今日は初日なので、少しでも職場の皆さんへの印象をよくしたい。私はもう一度鏡の前に立つと、お化粧と髪型に問題がないか念入りに確認した。

「本日から皆さまとご一緒にお仕事をさせて頂きます、藤堂美雪です。1日も早く戦力となれるように頑張りますので、よろしくお願いします」

 深々と頭を下げて、恐る恐る顔を上げる。こちらを見つめる人達の表情は柔らかく、パチパチと拍手の音が私を包んだ。第一段階はクリアしたと感じ、私はホッと胸をなで下ろした。

「藤堂さん、席ここだから」

 焦げ茶色の艶やかなロングヘアの、快活そうな女性が手を挙げて隣を指さしていた。そこには、何も置いていない真っ新なオフィスデスクがあった。