人通りはあるけれど、ごみごみはしていない。店舗に入れば笑顔で接客してくれるけど、しつこい営業トークはしてこない。ちょうど居心地のよい他人との距離感。私はそんな商店街を道なりに歩き、しばらくすると大きな幹線道路にぶつかった。

「わあ、桜だ……」

 それを見た時、思わず感嘆の声を漏らした。
 幹線道路沿いには、見事な桜並木があった。まさに満開を迎えた桜の木は、私の頭上をピンク色に染め上げている。ピンク色の合間から見える空の水色が眩しく、美しい。風で散った桜の花びらは、アスファルトの黒い道路を水玉模様に彩っていた。

 しばらく桜に見惚れていた私は、自分の進行方向の先を眺めた。
 桜並木の続く幹線道路はずっと続いていたが、道がカーブしているので先は見通せない。両脇の店の数も減ったように感じる。
 私は少し迷ってから、もう1度駅の方向へ戻る事にした。途中にあったお店を素通りしてきてしまったし、脇道もあったので、そちらの方も見てみたいと思ったのだ。

 インターロッキングの歩道をきょろきょろしながら歩いていると、ふと一軒の不動産屋さんが目に入り、私は何となく足を止めた。ガラス窓には物件情報がお洒落に貼り出されている。テープでベタベタ貼るのでは無くて、展示用ボードにお洒落に並べられたそれを見て、私はセンスがいいなぁと感心した。

 今住んでいる1LDKのマンションは英二と2人暮らし用に借りた物件だ。1人で住むには少し広いし、何よりも1人で支払うには家賃が高すぎる。私は自分1人で住むのにいい物件がないか、その不動産屋さんの前で物件情報を眺め始めた。
 1Kもしくは1R。家賃は5~6万円くらいだと今までと負担額があまり変わらないので助かる。駅からは10分以内が有難い。その条件だと目に付くのは1Kでも10万円以上の数字ばかり。流石は日本有数の高級住宅地だ。完全に予算オーバーだった。