こうやって改めて考えると、誰かと恋人になるって凄いことだ。
誰かに好きだと想いを伝えて、尚且つ相手も自分に好意を持ってないといけない。この広い世界には何億人もの異性がいるのに、その中で自分を好きだと好きな相手が思ってくれる。それはもの凄い奇跡に思えた。
桜木さんは私に好意を持ってくれているだろうか?
嫌われてはいないと思う。けれど、異性として好かれているかと聞かれると、正直自信が無い。
桜木さんは仕事終わりにたまたま一緒に外出していれば食事に誘ってくれるし、飲み会で帰りの方向が一緒だと一緒に帰ろうと声を掛けてくれる。でも、なんでもない日に2人きりで飲みに行こうと誘ってくれたことは1度もないし、休日に会う約束をしたこともない。だから、あくまでも後輩としてしか見られていない可能性は十分にあり得る。
「どうしようかなぁ……」
思わず弱気な言葉が口から漏れた。
いつかこの思いを伝えたいけれど、伝えて駄目だったら? 小さなオフィスなので、万が一にも気まずい雰囲気を作ってしまうと、周りの人たちにも迷惑をかけてしまうかもしれない。そう思うと、やっとむくむくと沸き起こってきた勇気が、強力な掃除機で吸い取られたごとく、たちまち掻き消えてしまう。
でも、そんなことを気にしていたら、この気持ちは一生伝えられない。桜木さんに彼女が出来て、最悪の場合結婚してしまう可能性だってある。
「どうしようかなぁ……」
またもや同じ言葉が口から漏れた。
私は桜木さんの人となりを考えた。
私が想いを伝えて断られた場合──悪い方に考えるのは私の悪い癖だけど、ここは許して欲しい──桜木さんはどういうリアクションをとるだろうか? 多少、気まずくなる可能性はある。2人きりになるのは避けられるかもしれない。でも、そのせいで仕事に支障をきたすような、あからさまなことはしない人だと思った。
むしろ、問題は私のほうだと思った。断られた事で卑屈になって、会社に行きたくないなんて思わないだろうか。なにせ、私には振られて辞表を出した前科がある。
イマディール不動産の仕事は、楽しい。会社の人達もいい人ばかりだ。もちろん、佐伯様のようなストレスフルなどお客様もいるけれど、それ以上に楽しかった。今の気持ちとしては辞めるなんて、とても考えられなかった。
色々と考えていたら、徒歩20分弱の自宅まではあっという間に到着してしまった。
私は玄関の鍵を開け、暗い部屋の電気をつけた。コートをハンガーにかけて玄関横に引っ掛けると、鞄をドサリとローテーブルに置く。弾みでロ―テーブルの上に置きっぱなしにしていた宅建の受験票がハラリと床に落ちた。
「あー、落ちた。縁起悪い!」
私は慌てて床に落ちた受験票を拾う。シール式のはがきが3面綴りになったそれを開くと、合格発表の日は今月上旬の日にちが書かれていた。カレンダーを見ると、もう数日後だ。
──これに受かってたら、伝えようかな。
そんな考えがふと頭を過ぎった。
でも、受かっているだろうか。試験当日に解答速報を見ながら行った自己採点ではぎりぎり合格ラインだったけれど、採点ミスの可能性だってある。そもそも合格率だって15%しかないのだ。
またもや耳元で強力な掃除機の音がし始めたのを感じた。この音はモーターヘッドを備えたサイクロン式の、某超高級掃除機に違いない。
「受かってたら、伝える!」
私は慌てて自分に言い聞かせるように、そう言った。掃除機の音を掻き消すごとく、大きな声で。
落ちていたら?
それはまた後々考えるとしよう。
誰かに好きだと想いを伝えて、尚且つ相手も自分に好意を持ってないといけない。この広い世界には何億人もの異性がいるのに、その中で自分を好きだと好きな相手が思ってくれる。それはもの凄い奇跡に思えた。
桜木さんは私に好意を持ってくれているだろうか?
嫌われてはいないと思う。けれど、異性として好かれているかと聞かれると、正直自信が無い。
桜木さんは仕事終わりにたまたま一緒に外出していれば食事に誘ってくれるし、飲み会で帰りの方向が一緒だと一緒に帰ろうと声を掛けてくれる。でも、なんでもない日に2人きりで飲みに行こうと誘ってくれたことは1度もないし、休日に会う約束をしたこともない。だから、あくまでも後輩としてしか見られていない可能性は十分にあり得る。
「どうしようかなぁ……」
思わず弱気な言葉が口から漏れた。
いつかこの思いを伝えたいけれど、伝えて駄目だったら? 小さなオフィスなので、万が一にも気まずい雰囲気を作ってしまうと、周りの人たちにも迷惑をかけてしまうかもしれない。そう思うと、やっとむくむくと沸き起こってきた勇気が、強力な掃除機で吸い取られたごとく、たちまち掻き消えてしまう。
でも、そんなことを気にしていたら、この気持ちは一生伝えられない。桜木さんに彼女が出来て、最悪の場合結婚してしまう可能性だってある。
「どうしようかなぁ……」
またもや同じ言葉が口から漏れた。
私は桜木さんの人となりを考えた。
私が想いを伝えて断られた場合──悪い方に考えるのは私の悪い癖だけど、ここは許して欲しい──桜木さんはどういうリアクションをとるだろうか? 多少、気まずくなる可能性はある。2人きりになるのは避けられるかもしれない。でも、そのせいで仕事に支障をきたすような、あからさまなことはしない人だと思った。
むしろ、問題は私のほうだと思った。断られた事で卑屈になって、会社に行きたくないなんて思わないだろうか。なにせ、私には振られて辞表を出した前科がある。
イマディール不動産の仕事は、楽しい。会社の人達もいい人ばかりだ。もちろん、佐伯様のようなストレスフルなどお客様もいるけれど、それ以上に楽しかった。今の気持ちとしては辞めるなんて、とても考えられなかった。
色々と考えていたら、徒歩20分弱の自宅まではあっという間に到着してしまった。
私は玄関の鍵を開け、暗い部屋の電気をつけた。コートをハンガーにかけて玄関横に引っ掛けると、鞄をドサリとローテーブルに置く。弾みでロ―テーブルの上に置きっぱなしにしていた宅建の受験票がハラリと床に落ちた。
「あー、落ちた。縁起悪い!」
私は慌てて床に落ちた受験票を拾う。シール式のはがきが3面綴りになったそれを開くと、合格発表の日は今月上旬の日にちが書かれていた。カレンダーを見ると、もう数日後だ。
──これに受かってたら、伝えようかな。
そんな考えがふと頭を過ぎった。
でも、受かっているだろうか。試験当日に解答速報を見ながら行った自己採点ではぎりぎり合格ラインだったけれど、採点ミスの可能性だってある。そもそも合格率だって15%しかないのだ。
またもや耳元で強力な掃除機の音がし始めたのを感じた。この音はモーターヘッドを備えたサイクロン式の、某超高級掃除機に違いない。
「受かってたら、伝える!」
私は慌てて自分に言い聞かせるように、そう言った。掃除機の音を掻き消すごとく、大きな声で。
落ちていたら?
それはまた後々考えるとしよう。