12月に入ると、日中でも気温はかなり下がってきた。特に朝晩は冷え込みが激しく、コートが手放せない。退社時間の6時半頃でも数ヶ月前まではまだ明るかったのに、いつの間にか日は短くなり、今ではその時間には真っ暗になっていた。そんな季節になると、毎年のような風物詩が見られるようになる。

「綺麗だなぁ」

 私は通りに飾られたイルミネーションを見て、ほぅっと息を吐いた。
  この季節、街はどこもかしこもクリスマスイルミネーションに彩られる。広尾商店街では大規模なクリスマスイルミネーションは行わなれないが、ちょっとした電光は飾られる。帰り道、途中で通りかかる明治通りの入口にある商業施設──広尾プラザでも可愛らしくスノーマンの置き物とイルミネーションが飾られていた。あたり一面のイルミネーションでは無いけれど、かえってそのこじんまりした雰囲気がほっこりとした気分にさせる。

 今の生活圏の周辺には、クリスマスイルミネーションで有名な地域が沢山ある。
 歩いていける範囲なら白金のプラチナ通りや恵比寿ガーデンプレイス、日比谷線に乗れば一駅の六本木駅では六本木ヒルズや、東京ミッドタウンのイルミネーションも有名だ。銀座だって日比谷線に乗ればすぐだし、バスに乗って北上すれば表参道もあっという間に行ける。

 おしゃれで美味しいレストランも目移りするほど沢山あるし、人生においてこんなにもクリスマスを過ごすのに適した地域に住むのは初めてだ。
 しかしながら、現実は厳しい。
 つい先日、無事に誕生日を迎えてまた1つ歳を重ねた藤堂美雪、現在28歳。なんと、この絶好の機会に、クリスマスを一緒に過ごす人がいない。本当に、なんということだ!

 桜木さんは、誰かと過ごすのかなぁ……なんて思っても、当然ながらそれを本人に聞く勇気もない。キラキラと光る電飾を眺めながら、私ははぁっと息を吐いた。

 私と桜木さんの関係は、相変わらずの『会社の先輩と後輩』の域を全く出ない。どんな大波にも耐えてぴったりとそこに貼りつき頑として動かないフジツボの如く、後退も無ければ前進もないのだ。

 一体世の中の男女はどうやって恋人同士になるんだっけ? と私は片手で数えられる程しか無い自分の過去の恋愛遍歴の記憶を辿った。

 一番最近の彼氏は、英二だ。
 たしか、英二の時は会社の飲み会がきっかけだった。当時流行っていたお笑い芸人の真似をして宴会を盛り上げていた英二が、私にはとっても輝いて見えたっけ。やっていたのは、テクノ系サウンドを組み合わせた音楽ネタで当時大流行したものだ。その後に隣に座った英二と好きな音楽の話で盛り上がりすっかり意気投合して、帰り道に次回は2人で飲もうと約束をした。
 つまり、これは『自然の流れで付き合いだした』というやつだ。うん、参考にならない。
 ちなみにラインと電話をブロックしたおかげで、英二からその後はコンタクトは無い。なんで急にあんなことを言い出したのかと少しだけ気になりはしたけれど、すぐに私には関係のない事だと思い直した。

 その前はどうだったっけ、と私はさらに記憶を辿る。
 英二の前の彼氏は大学3年生から卒業して離れ離れになるまで付き合っていた人だ。
 大学生の時のその彼氏は、同じ学科の友人だった。授業のグループ課題で、同じグループにになった男の子で、普段はしっかりしてるのに2人になると途端に弟キャラの甘えん坊になる人だった。2人きりだと、よくお腹のあたりに抱き付いてきて頭をぐりぐりして甘えてきたのを思い出した。
 付き合い出したきっかけは……たしか、向こうから告られたような気がする。大学の教室で2人きりになった時に、「好きです」って。彼のことを内心でいいなと思っていた私は、彼に想いを打ち明けられて舞い上がるような気分だった。
 この彼氏とは、お互いの就職で離れ離れになって最後は電話でさようならになった。

 その前の彼氏は……大学のサークルの先輩だった。これも向こうから告られた気がする。