私はもう一度ハァッとため息をつくと、スマホで求人案内の検索を始めた。田舎の両親には元気にやっていると言っている手前、何となく頼りにくい。あまり貯金がないから、出来るだけ早く働けるところを探さないと。出来れば正社員がいい。力仕事は無理。女ばっかりの職場もドロドロしているから避けたいな。やっぱり経験があるって事で不動産窓口が無難かな。

 そんなことを思いながら、目を皿にして探したけれど、なかなか条件に合う仕事は見当たらない。しばらく画面を見ていた私は段々と嫌になってきて、持っていたスマホをポイっとベッドに放り投げた。
 ゴロンと仰向けになると、見上げた白い天井が落ちてくるような嫌な錯覚に襲われた。冷蔵庫のヴィーンという音が異様に大きく聞こえる静寂が辛い。何もかもが嫌になる。

「あーあ。気分転換にでも行こ」

 私はおずおずと起き上がりハンドバックを手にすると、簡単に化粧をした。家を出て向かったのは10分ちょっと歩いたところにある最寄りの駅だ。

「どこ行こうかな……」

 駅の路線図を見ながらどこに行こうかと考える。
 いつもなら会社のある隣の駅が大きいからそこに行くけれど、今は知り合いに会いたくない。どこか遠いところに行きたかった。誰も私を知らないところに。でも、お金の事もあるからそんなに遠出は出来ない。
 しばらく鉄道案内を見ていた私は、気分転換なのだから、たまには少し離れた都心のお洒落な街にでも行ってみようと思った。ちょうど目に入ったのが広域路線図に書かれた東京メトロ日比谷線の『広尾』の文字だった。

 広尾と言うのは、言わずと知れた日本有数の高級住宅街だ。東京都渋谷区にあり、山手線で言うと西側の端、渋谷から南東内側に少し入ったところに位置している。
 不動産窓口をしていたのでそれは知っていた。けれど、行ったことはないのでどんな場所なのかは全く知らない。
 きっとお金持ちのセレブが集まる、とびきりお洒落な街に違いないと思った。こんな気分の日は、お洒落な街に行ったら気分も上向くかもしれない。

 私は行き先を広尾にきめると、電車に飛び乗った。