「建て替えるのも良いけど、リフォームしたら? 今働いている会社がね、リフォームとかリノベーションが得意なんだよ。まるで新築みたいになるよ」
「イノベーションってなに?」
「リノベーションはね──」

 キョトンとする母親に、私はリノベーションの何たるかを話して聞かせた。この場にイマディール不動産の物件案内が無いことが悔やまれてならない。私は何枚か撮影した写真が持って来た会社用スマホに入っていることを思い出し、それを母親に見せた。

「これ、凄いでしょ? 会社の先輩と一緒に考えてリノベーションしたの。元はこんな部屋だったんだよ」

 私はリノベーション前の写真も画面をスライドさせて母親に見せた。画面の中では、何の変哲もない少し古びた部屋が、ホテルのような空間に生まれ変わっている。母親はそれを見て、目を丸くしていた。

「へえ、凄いわね。イノベーション」

 イノベーションじゃなくてリノベーションなんだけど……と思ったけど、そこは触れないであげた。私のスマホの画面を暫く眺めていた母親は、画面から視線を外して私の顔を見ると、安堵したような表情を浮かべた。

「よかった。美雪ちゃんが元気にやってそうで」
「え?」
「前の会社の時は、帰ってくる度にこんなお客さんが来て大変だったって愚痴が多かったじゃない? 今は楽しそう」

 母親の指摘に、私は口を噤んだ。

「お母さんたち心配してたのよ。突然美雪ちゃんが転職して引っ越ししたって言い出して、しかも物凄い都会でしょ? 騙されて、変な会社に入ったんじゃないかと思って」
 
 母親は私に「はい」とスマホを返してきた。私はそれを受け取ると母親の顔を見た。母親は私と目が合うと、嬉しそうに笑った。

「でも、楽しそうでよかった。いい会社に転職できてよかったわね」
「……うん。ありがと」

 私はそう言うと、スイカをザクっと切った。独特の甘さと青臭さが混ざったような香りが広がる。

 父親が買ってきたスイカはとっても甘くて美味だった。1人用のカットスイカは割高なので、今シーズン私がスイカを食べるのは初めてだ。出かけていた弟も帰ってきて、あんなに大きなスイカだったのに家族4人で1度に半分食べてしまった。


 お盆休みには、地元から他の地域に出て行った友達も帰ってくることが多い。たまたまラインでやり取りして地元にいるとわかった高校の時の友達と、私は久しぶりに集まった。もう高校を卒業してから10年近い年月が経った。でも、こうやって集まると同じ制服を着て学校に通い、机を並べていたのがつい先日の様な気がしてしまう。
 地元の友達と近況を報告し合うと、皆様々だった。今も地元に留まって美容師として働いている子もいれば、結婚して専業主婦になった子もいるし、私と同じように地元を出た子もいる。でも、環境は違えども会えば当時のように話が盛り上がった。

「ねえ。美雪は例の彼と結婚決まった?」

 友達の1人にそう聞かれ、私はぴたりと動きを止めた。それを聞いてきた友達はにこにことしている。そう言えば、去年会った時に、「今付き合っている人と結婚すると思う」と話していたのだ。当時私の言った『今付き合っている人』とは、もちろん英二のことだ。

「あー、色々あって別れちゃった」

「そうなの? まあ、結婚してもいいと思う人と、付き合って楽しい人って別だよね」
「そうそう、バツつく前でよかったじゃん。次いこ、次」
「美雪は料理上手だし、綺麗だから、すぐ見つかるよー。バカだね、その男」

 あっけらかんとした様子で友人達が笑う。てっきり暗い雰囲気になってしまうかと思った私は、ちょっと拍子抜けした。
 
「だね。次に行こうと思います!」

 私は口元を綻ばせると、にかっと笑って見せた。
 久しぶりに会った友人達に、沢山の元気を貰えた気がした。