休暇というのは、普段の忙しい時は大変ありがたいものだ。けれど、毎日が休暇だとあっという間にやりたいことがなくなる。
平日は友達も仕事していて都合が合わないし、ゲームも飽きたし、美容院も行ったし、平日に済ませておきたかった用事ももう終わったし……
なによりも、記帳したての預金通帳を見て私は顔を顰めた。残金のところには『398,443』と記載されていた。間取り1LDKのマンションの家賃は11万円。今までは半額が英二が払っていたけれど、1ヶ月程前に英二が出て行ったので、今月からは全額自分で払う必要がある。引っ越すにも資金がいるし……。
つまり、私は早急に働く必要があるようだ。
つい2週間程前まで働いていた──正確に言うと今日まで有給休暇を消化中だから一応在籍している会社は、賃貸住宅の仲介を行う不動産会社だった。従業員は15名で、私はそこで窓口スタッフとして働いていた。一応正社員だったけど、給料はあまり高くなかった。
「今月までは給料が出るけど……、どうしよう」
私は通帳を見ながらハァッとため息をついた。
会社を辞めると言ったのは、完全に英二への当てつけだった。こっぴどく振られた自分が肩身の狭い思いをして、英二は後輩とよろしくやってるあの状況が耐えられなかったのだ。
「あーあ。ばかだな、私……」
こんな事しても、何にもならない。本当にばかだ。英二の中で燻っていた不満に気付かなかったことも、私だけラブラブだと思い込んでていたことも、会社を辞めたことも、何もかも……
あの日、私は英二が『会社を辞めるな』ではなく、『私と別れると言ったのは気の迷いだった』と言ってくれることを心のどこかで期待していた。
すぐに引っ越さなかったのは、もしかしたら英二がもう一度戻って来るかもしれないと、ほのかに期待していたから。我ながら、本当に救いようのないばかだ。