7月も半ばになり、暖かいと言うよりは灼熱に近くなってきた今日この頃。私は1人、カフェで時間を潰していた。
 プラチナ通りのカフェの前からは、おめかしして通りを歩く人達の姿がよく見える。私はお洒落なグラスに注がれたアイスカフェラテを飲みながら、道行く人達をぼんやりと眺めていた。

「美雪、ごめーん」

 カフェの扉がウィーンと開き、入ってきた真理子が私を見つけて手を振る。私も真理子に向かって、片手を挙げて見せた。

「終わったらすぐ出てこられると思ってたら、意外と時間取られてさぁ」

 真理子は遅れた理由をぼやきながら、私の前の席へと腰掛けた。パーティードレスに合わせてセットされた髪の毛は緩い編み込みにされて可愛らしく結い上げられていた。

「全然大丈夫だよ。結婚式どうだった?」
「すっごい素敵だったよ。式場の庭園が庭園が広くてさー、ああ言うのいいね。ウエディングドレスに憧れてたのに、一気に和装派になった」

 真理子は答えながら、引き出物の紙袋に手持ちのハンドバッグをまとめて1つにする。それを椅子の下にある籠に入れて、顔を上げた。

「緑さん、すっごい綺麗だったよ」
「そっかぁ。見たかったな」
「写真撮ったよ。ちょっと待ってね」

 真理子は自分のスマホを鞄から取り出すと、画面をタップし始める。しばらくして、「はい」と私にスマホを手渡した。

 私は画面を見た。
 液晶画面には、色打ち掛け姿の女性と、紋付き袴を着た男性が映っていた。赤い色打ち掛けには全体的に刺繍が施されているのか、とても豪華だ。こちらを見つめて微笑む2人はとても幸せそうに見える。

「ほんと。緑さん綺麗」
「ね。やっぱり花嫁姿は特別だよ」

 私からスマホを受け取ると、真理子はふふっと笑った。
 今日、前の会社の同僚の結婚式があったらしい。緑さんは私と一緒に賃貸物件をお客様にご案内する窓口業務をしていた。私はもう辞めてしまったのでその結婚式に招待されなかったが、小さな会社だったので社員の半分以上が招待されたと言う。

「幸せのお裾分けだね。元気になった」
「だね」
「美雪が辞めてさ、新しい子が1人入ってきたんだけど、窓口業務中も竹井さんとずっと2人で喋ってるの。だから、みんな私と緑さんが対応しててさー。注意しても、『わかりましたー』って言って、結局喋ってるんだよ」

 運ばれてきた自家製レモンスカッシュをストローでかき混ぜながら、真理子は少し口を尖らせた。ちなみに、真理子の言う『竹井さん』とは、私から英二を取った後輩のことだ。私が前の会社のを辞めてまだ4ヶ月程度しか経っていないけれど、社内はだいぶ雰囲気が変わったのかもしれない。
 真理子はその後も、会社の話を沢山話してくれた。

「もうそろそろ行かないとかな? ここって遠い?」

 1時間位話しただろうか。真理子は鞄から1枚の紙を取り出すと、それを私に差し出した。紙にはレストランの名前と地図、受け付け時間などが書かれている。これから、結婚式の2次会のある場所のようだ。偶然だが、その店は以前、私が白金台を散歩をしたときに結婚式パーティーをしているのを見かけたあの店だった。

「すぐ近くだよ。帰り道だし、店の前まで一緒に行くよ」
「本当?」
「うん。真理子ともっと話したいし」
「ありがとう」

 少しはにかんだ真理子は、手に持った大きな紙袋を怨めしげに見つめた。

「あーあ。こんな格好じゃ無くて、荷物も無ければ美雪のうちに泊まるんだけどな」

 口を尖らせた真理子を見て、私は苦笑した。真理子には今日の2次会が終わった後、うちに泊まりに来ないかと誘った。明日は日曜日だし、積もる話も沢山ある。だけど、格好がパーティードレスだし、荷物が多いし、ということで泣く泣くお泊まりは無しになった。

「またいつでも来てよ」
「うん、絶対行くね!」

 真理子は嬉しそうににこっと笑った。