6月も末のある休日、私は朝から今月始まったばかりの宅建試験の通信講座に取り組んでいた。
ローテーブルに置かれたパソコン画面のなかでは、黒縁眼鏡をかけたおじさん先生が黒板をコツコツ叩きながら授業をしている。私はローテーブルに向かって座り、テキストに先生が説明したことを時々走り書きしながら聞いていた。
しかし、情けないことに1時間を過ぎた頃には私はすっかり飽きていた。大真面目に取り組んでいるつもりなのに、おかしい。不思議なことに、しっかり寝たのにすぐに眠くなる。時計を確認すると、まだ午前11時だった。
「我ながら、集中力のなさが情けない……」
私はローテーブルに額をついてがっくりと項垂れた。でも、飽きてしまったものをイライラしながら勉強しても効率悪いし……
数秒の逡巡ののち、私は少し早いけれどお昼ごはんにすることにした。一昨日、作った煮物を小分けに冷凍したことを思い出し、冷蔵庫から取り出すとレンジでチンする。お米も冷凍していたのでチンした。
「うん。美味しい」
私は1人でローテーブルに向かい、独りごちる。だいぶ慣れては来たけれど、やっぱりちょっと寂しい。
私の趣味は料理だった。『だった』と言うのは語弊があるかも知れない。今も好きだ。だけど、女のひとり暮らしで料理をしても、どうしても材料が余る。逆に余らないように作ると食べきれず、何日も同じメニューを食べる羽目になる。黙々と食事を終えた私は「ごちそうさまでした」と両手を合わせると皿を流しに持っていった。皿洗いしながら外を見ると、今日はとてもよく晴れている。
この時期になると、梅雨も本格的だ。毎日のように雨ばかりだから、こんな爽やかな晴れは珍しい。気分転換も兼ねて、私は出かけることにした。
「どこに行こうかな……」
マンションを降りた私は辺りを見渡した。
私の住むマンションは、広尾、恵比寿、白金台という都心の人気地区の3駅のちょうど中心辺りに位置している。3駅はどれも距離にすると、ここから1キロちょっとだ。会社が広尾にあるので広尾方面に行くことは多いけれど、他の2つの駅の方面にはほとんど行ったことがなかった。
少し迷って、私は一昔前に『シロガネーゼ』と呼ばれる高級マダムが過ごす街として名を馳せた、白金台の方向にお散歩することにした。
白金台駅に向かうには、マンションを出て外苑西通りを南下する必要がある。途中で道路と交差する首都高速道路の高架をくぐると、大通りの両側には銀杏の並木が現れた。
ここから白金台駅までの区間、外苑西通りは通称『プラチナ通り』とも呼ばれる。お洒落スポットして有名だけれど、実際に私が訪れたのは初めてだった。
緩やかなカーブを描く坂道を登ると、道の両側にはぽつぽつと店舗が現れ始める。軒を連ねるのは、スーパーマーケットやアパレルショップ、チョコレートなどのスイーツショップ。それらは全て路面店なので大通りから中の様子がよく見えて、お洒落だけれども入りやすい雰囲気だ。同じ商店街になるのだろうが、道路が広いせいか、広尾商店街とはだいぶ雰囲気が違って見えた。
途中、スーツ姿やドレス姿の若い人達が歩道に溢れているのを見つけた。目をやれば、通り沿いのレストランでは結婚パーティーを行っていた。そういえば、今は6月だからジューンブライドだ。
ランチタイムに合わせてパーティーを開催したのか、ちょうど終わったばかりのようで新郎新婦が出口でミニギフトを手渡しながら来賓の方々をお見送りしている。寄り添う新郎新婦は満面に笑みを浮かべており、とても幸せそうだ。
「いいなぁ。お幸せに」
純白のウエディングドレスを着て微笑む花嫁は、幸せの象徴のように見えた。たぶん、年齢は私と同じくらい。私は小さな声で祝辞を述べ、その場を通り過ぎる。
ローテーブルに置かれたパソコン画面のなかでは、黒縁眼鏡をかけたおじさん先生が黒板をコツコツ叩きながら授業をしている。私はローテーブルに向かって座り、テキストに先生が説明したことを時々走り書きしながら聞いていた。
しかし、情けないことに1時間を過ぎた頃には私はすっかり飽きていた。大真面目に取り組んでいるつもりなのに、おかしい。不思議なことに、しっかり寝たのにすぐに眠くなる。時計を確認すると、まだ午前11時だった。
「我ながら、集中力のなさが情けない……」
私はローテーブルに額をついてがっくりと項垂れた。でも、飽きてしまったものをイライラしながら勉強しても効率悪いし……
数秒の逡巡ののち、私は少し早いけれどお昼ごはんにすることにした。一昨日、作った煮物を小分けに冷凍したことを思い出し、冷蔵庫から取り出すとレンジでチンする。お米も冷凍していたのでチンした。
「うん。美味しい」
私は1人でローテーブルに向かい、独りごちる。だいぶ慣れては来たけれど、やっぱりちょっと寂しい。
私の趣味は料理だった。『だった』と言うのは語弊があるかも知れない。今も好きだ。だけど、女のひとり暮らしで料理をしても、どうしても材料が余る。逆に余らないように作ると食べきれず、何日も同じメニューを食べる羽目になる。黙々と食事を終えた私は「ごちそうさまでした」と両手を合わせると皿を流しに持っていった。皿洗いしながら外を見ると、今日はとてもよく晴れている。
この時期になると、梅雨も本格的だ。毎日のように雨ばかりだから、こんな爽やかな晴れは珍しい。気分転換も兼ねて、私は出かけることにした。
「どこに行こうかな……」
マンションを降りた私は辺りを見渡した。
私の住むマンションは、広尾、恵比寿、白金台という都心の人気地区の3駅のちょうど中心辺りに位置している。3駅はどれも距離にすると、ここから1キロちょっとだ。会社が広尾にあるので広尾方面に行くことは多いけれど、他の2つの駅の方面にはほとんど行ったことがなかった。
少し迷って、私は一昔前に『シロガネーゼ』と呼ばれる高級マダムが過ごす街として名を馳せた、白金台の方向にお散歩することにした。
白金台駅に向かうには、マンションを出て外苑西通りを南下する必要がある。途中で道路と交差する首都高速道路の高架をくぐると、大通りの両側には銀杏の並木が現れた。
ここから白金台駅までの区間、外苑西通りは通称『プラチナ通り』とも呼ばれる。お洒落スポットして有名だけれど、実際に私が訪れたのは初めてだった。
緩やかなカーブを描く坂道を登ると、道の両側にはぽつぽつと店舗が現れ始める。軒を連ねるのは、スーパーマーケットやアパレルショップ、チョコレートなどのスイーツショップ。それらは全て路面店なので大通りから中の様子がよく見えて、お洒落だけれども入りやすい雰囲気だ。同じ商店街になるのだろうが、道路が広いせいか、広尾商店街とはだいぶ雰囲気が違って見えた。
途中、スーツ姿やドレス姿の若い人達が歩道に溢れているのを見つけた。目をやれば、通り沿いのレストランでは結婚パーティーを行っていた。そういえば、今は6月だからジューンブライドだ。
ランチタイムに合わせてパーティーを開催したのか、ちょうど終わったばかりのようで新郎新婦が出口でミニギフトを手渡しながら来賓の方々をお見送りしている。寄り添う新郎新婦は満面に笑みを浮かべており、とても幸せそうだ。
「いいなぁ。お幸せに」
純白のウエディングドレスを着て微笑む花嫁は、幸せの象徴のように見えた。たぶん、年齢は私と同じくらい。私は小さな声で祝辞を述べ、その場を通り過ぎる。