「今のところは東京タワーと東京スカイツリーなら、東京タワーの方が物件価格にプラスになるね。まあ、大した差じゃないけど。これはあくまでも俺の推測だけど……」
桜木さんが一旦、言葉を切る。
「多分、東京スカイツリーはデカすぎるんだな。見える範囲が広すぎて、プレミア感がない。でも、将来的には変わるかもしれないけどね」
肩を竦めて見せる桜木さんを見上げて、私は目をぱちくりとさせた。デカすぎることがマイナスになるとは、何とも不動産価値は難しい。
2人で並んで歩くこと5分。目立つので迷子にもなりようがなく、私達は目的の東京タワーのふもとまで到着した。最後はアスファルトで舗装されたの坂道を上ると、入り口が見えてくる。
「せっかくだから展望台まで上ってみる?」
「はい」
桜木さんに誘われて、私は頷いた。
私達は正面チケットエントランスに向かい案内板を見ると、展望台は2つあり、上のトップデッキと下のメインデッキに別れていた。上の展望台に行くにはツアーを予約しなければならず、お値段も下の展望台の3倍近くする。
ツアー時間がそれなりにかかると聞き、私達は泣く泣く下の展望台までのチケットを購入した。案内に出ている上の展望台はキラキラした内装をしており、とても素敵な演出をしてくれるらしい。それに、今日初めて知ったのだけど、東京タワーには色々と付帯施設もあるらしい。こちらも時間がないので行けないけれど、近いし今度リベンジしたいなと思った。
下の展望台からでも、周辺の景色はとてもよく見えた。ビルの林がどこまでも広がっている。西の方には富士山が見えた。
「東京タワーの下って緑が、広がってますよね。あれは何なんでしょう?」
東京湾の方角を見た時、私は東京タワーのすぐふもと、東京湾を臨む方向に緑が広がっているのを見つけた。下を覗き込むと、緑の中にはいくつか建物もあるようで、その敷地はとても広いようにに見える。
「ここに地図があるよ。えっと、芝公園と増上寺かな?」
桜木さんは展望台に置いてあった案内板を見ながら呟いた。確かに、『芝公園』『増上寺』と書いてある。
私はスマホで芝公園と増上寺について調べてみた。私が見たサイトには芝公園は増上寺を中心とする公園で、上野公園と並ぶほど古い歴史があると書かれていた。同一区画の中にホテルまであるらしい。
「おっきな公園ですねー」
「本当だね。降りたら歩いてみる?」
「いいですね!」
私達はもう一度ぐるりと展望台を1周して都心の街並みを堪能してから、エレベーターで下に降りた。最後に見た景色は、夕焼けに空が染まってとてもロマンチックだ。こんなところ、デートで来たら楽しいだろうな。
エレベーターを降りると、そこは飲食店とお土産売り場のフロアになっていた。私はたまたま目に入った東京タワーを模したプラスチックケースに入った金平糖を買った。
「甘いの好きなの?」
「甘すぎなければ。可愛いからオフィスの机の上に置いておいて、お腹が空いたら食べようかなと」
「確かに可愛いね」
桜木さんはそのお菓子を見て、クスリと笑った。
芝公園は本当に大きかった。
花壇や広場、子供向け遊具などがあり、仕事終わりの休憩なのか、ベンチにはスーツ姿のサラリーマンがちらほらと見えた。
段々と日が暮れる。それに合わせるように、東京タワーはライトアップされる。赤と白の躯体がライトアップされた東京タワーは、色合いに温かみがあって、どれだけ見ていても飽きない。
「綺麗ですね」
「そうだね。いまスマホで調べたら、すぐ近くに人気のレストランがあるみたいだから行ってみない?」
隣でスマホを弄っていた桜木さんが私を顔に視線を向ける。そこまで言って、桜木さんはハッとしたような顔をした。
「ごめん。軽々しく誘ったけど、男と2人で食事すると彼氏さんが怒るよね」
「いいえ! 私、彼氏いないですから」
私があっけらかんと答えると、桜木さんはホッとしたような表情になった。
「よかった。あ、いや、藤堂さん的にはよくはないか」
自分の言葉を慌てたように否定する。バツが悪そうな表情は、なんだか仕事モードの桜木さんでは見られない一面だ。
「とにかく、藤堂さんがよかったら、夕飯食べに行かない?」
「行きます!」
どうせ家に帰っても、部屋で寂しく1人ご飯だ。私は喜んでそのお誘いに頷いた。
桜木さんがスマホを確認しながら連れて行ってくれたレストランは東京タワーの夜景がよく見える、創作料理のレストランだった。飛び入りで入店したので窓際はすでに満席だった。
「あー、ごめん。窓際がよかったよね……」
席に座ると、桜木さんは私を見て苦笑いした。
「いえ、大丈夫です。ほら、見えるし!」
私は少し離れたところにある窓を指さす。そこからは東京タワーの胴体部分が見えた。残念ながら、ここの席からだと全体は見えない。
「そう言ってもらえてよかった。とにかく、お疲れさま」
桜木さんがグラスを傾ける。私は軽くカツンとグラスをぶつけた。
素敵な夜景に美味しい料理、それはとても楽しい時間だった。
***
夜、家でパソコンを触っていた私はふと今朝のことを思い出して『宅地建物取引士』のことを調べた。
国家資格なので、やっぱりそれなりに難しそうだ。更に調べてみると、今年の試験は10月にあるようだ。今は5月だから、ちょうどあと5ヶ月。検索して一緒に出てきた資格学校の講座は、まるで私が今日調べることを知っていたかのように、ちょうど6月開校になっている。受講料を確認すると、それなりの値段だ。安くはない。
「どうしようかな……」
私はパソコンの画面を眺め、独り言ちる。
脳裏には、テキパキと仕事をこなしてゆく桜木さんの姿が浮かんだ。この資格をとったからといってすぐに桜木さんみたいにバリバリ働けるようになるとは思わない。けれど、私も少しは近づけるだろうか。
「通信教育のお金も受かれば戻ってくるって言ってたよね……」
私は少し迷ってから、マウスをポチっとクリックした。
桜木さんが一旦、言葉を切る。
「多分、東京スカイツリーはデカすぎるんだな。見える範囲が広すぎて、プレミア感がない。でも、将来的には変わるかもしれないけどね」
肩を竦めて見せる桜木さんを見上げて、私は目をぱちくりとさせた。デカすぎることがマイナスになるとは、何とも不動産価値は難しい。
2人で並んで歩くこと5分。目立つので迷子にもなりようがなく、私達は目的の東京タワーのふもとまで到着した。最後はアスファルトで舗装されたの坂道を上ると、入り口が見えてくる。
「せっかくだから展望台まで上ってみる?」
「はい」
桜木さんに誘われて、私は頷いた。
私達は正面チケットエントランスに向かい案内板を見ると、展望台は2つあり、上のトップデッキと下のメインデッキに別れていた。上の展望台に行くにはツアーを予約しなければならず、お値段も下の展望台の3倍近くする。
ツアー時間がそれなりにかかると聞き、私達は泣く泣く下の展望台までのチケットを購入した。案内に出ている上の展望台はキラキラした内装をしており、とても素敵な演出をしてくれるらしい。それに、今日初めて知ったのだけど、東京タワーには色々と付帯施設もあるらしい。こちらも時間がないので行けないけれど、近いし今度リベンジしたいなと思った。
下の展望台からでも、周辺の景色はとてもよく見えた。ビルの林がどこまでも広がっている。西の方には富士山が見えた。
「東京タワーの下って緑が、広がってますよね。あれは何なんでしょう?」
東京湾の方角を見た時、私は東京タワーのすぐふもと、東京湾を臨む方向に緑が広がっているのを見つけた。下を覗き込むと、緑の中にはいくつか建物もあるようで、その敷地はとても広いようにに見える。
「ここに地図があるよ。えっと、芝公園と増上寺かな?」
桜木さんは展望台に置いてあった案内板を見ながら呟いた。確かに、『芝公園』『増上寺』と書いてある。
私はスマホで芝公園と増上寺について調べてみた。私が見たサイトには芝公園は増上寺を中心とする公園で、上野公園と並ぶほど古い歴史があると書かれていた。同一区画の中にホテルまであるらしい。
「おっきな公園ですねー」
「本当だね。降りたら歩いてみる?」
「いいですね!」
私達はもう一度ぐるりと展望台を1周して都心の街並みを堪能してから、エレベーターで下に降りた。最後に見た景色は、夕焼けに空が染まってとてもロマンチックだ。こんなところ、デートで来たら楽しいだろうな。
エレベーターを降りると、そこは飲食店とお土産売り場のフロアになっていた。私はたまたま目に入った東京タワーを模したプラスチックケースに入った金平糖を買った。
「甘いの好きなの?」
「甘すぎなければ。可愛いからオフィスの机の上に置いておいて、お腹が空いたら食べようかなと」
「確かに可愛いね」
桜木さんはそのお菓子を見て、クスリと笑った。
芝公園は本当に大きかった。
花壇や広場、子供向け遊具などがあり、仕事終わりの休憩なのか、ベンチにはスーツ姿のサラリーマンがちらほらと見えた。
段々と日が暮れる。それに合わせるように、東京タワーはライトアップされる。赤と白の躯体がライトアップされた東京タワーは、色合いに温かみがあって、どれだけ見ていても飽きない。
「綺麗ですね」
「そうだね。いまスマホで調べたら、すぐ近くに人気のレストランがあるみたいだから行ってみない?」
隣でスマホを弄っていた桜木さんが私を顔に視線を向ける。そこまで言って、桜木さんはハッとしたような顔をした。
「ごめん。軽々しく誘ったけど、男と2人で食事すると彼氏さんが怒るよね」
「いいえ! 私、彼氏いないですから」
私があっけらかんと答えると、桜木さんはホッとしたような表情になった。
「よかった。あ、いや、藤堂さん的にはよくはないか」
自分の言葉を慌てたように否定する。バツが悪そうな表情は、なんだか仕事モードの桜木さんでは見られない一面だ。
「とにかく、藤堂さんがよかったら、夕飯食べに行かない?」
「行きます!」
どうせ家に帰っても、部屋で寂しく1人ご飯だ。私は喜んでそのお誘いに頷いた。
桜木さんがスマホを確認しながら連れて行ってくれたレストランは東京タワーの夜景がよく見える、創作料理のレストランだった。飛び入りで入店したので窓際はすでに満席だった。
「あー、ごめん。窓際がよかったよね……」
席に座ると、桜木さんは私を見て苦笑いした。
「いえ、大丈夫です。ほら、見えるし!」
私は少し離れたところにある窓を指さす。そこからは東京タワーの胴体部分が見えた。残念ながら、ここの席からだと全体は見えない。
「そう言ってもらえてよかった。とにかく、お疲れさま」
桜木さんがグラスを傾ける。私は軽くカツンとグラスをぶつけた。
素敵な夜景に美味しい料理、それはとても楽しい時間だった。
***
夜、家でパソコンを触っていた私はふと今朝のことを思い出して『宅地建物取引士』のことを調べた。
国家資格なので、やっぱりそれなりに難しそうだ。更に調べてみると、今年の試験は10月にあるようだ。今は5月だから、ちょうどあと5ヶ月。検索して一緒に出てきた資格学校の講座は、まるで私が今日調べることを知っていたかのように、ちょうど6月開校になっている。受講料を確認すると、それなりの値段だ。安くはない。
「どうしようかな……」
私はパソコンの画面を眺め、独り言ちる。
脳裏には、テキパキと仕事をこなしてゆく桜木さんの姿が浮かんだ。この資格をとったからといってすぐに桜木さんみたいにバリバリ働けるようになるとは思わない。けれど、私も少しは近づけるだろうか。
「通信教育のお金も受かれば戻ってくるって言ってたよね……」
私は少し迷ってから、マウスをポチっとクリックした。