ああ、本当に今日はツイてない。後輩と最寄り駅が一緒なのは知っていたけれど、コンビニで鉢合わせするなんてこれまで1度もなかったのに。
 後輩がふいに振り返ったのを見て、私は慌てて踵を返した。

 なんて惨めなんだろう。
 あの2人は仕事も今まで通り続けていて、寄り添って幸せそうで、何も変わらずに暮らしている。なのに私は、恋人を失い、仕事を失い、家も引っ越し、こんなふうにコソコソして。

 何がいけなかったのかな。
 そんなこと考えても、もう仕方がない事くらい知ってる。
 けれど、自分がとても惨めな存在に思えて、涙がこぼれ落ちそうになった。それが悔しくて、私はぎゅっと目を瞑ってから空を見上げた。

「遅かったねー。どっか寄り道してたの?」

 家に戻ると、真理子はすっかりお皿を包み終えて調理器具を仕舞い始めていた。私は真理子に買ってきた缶コーヒーを手渡す。

「うん。散歩がてら向こうのコンビニまで行ってきた」
「そっか。もう、この辺歩くこともなくなるしね」

 真理子は深く追求することもなく、私から缶コーヒーを受け取るとパキンと蓋を開けた。

「お。このカップケーキ、ブラックコーヒーと合わせるとなかなか美味しいよ」

 真理子に促されて、私もカップケーキを食べて缶コーヒーを一口含む。カップケーキの強烈な甘さとコーヒーの苦みがいい具合に混じり合って、凄く美味しい。

「本当だ。美味しい。真理子、ありがとう」
「どういたしましてー。美雪の今度住む所なんて、近くに美味しいお店がたくさんありそうだよね。いいなぁ」
「引っ越ししたら、遊びに来てよ。ワンルームマンションだけど、詰めればお布団敷けると思うから、泊まりに来てくれてもいいし。ちょっと古いけど、すごく素敵なの」
「本当? 行く行く!」

 真理子は私の誘いに嬉しそうに笑った。
 真理子が手伝ってくれたお陰で、荷詰めの作業はあっという間に終わった。あとは明日、引っ越し屋さんが荷物を運び出したらこのマンションともさようならだ。

「ねえ、真理子。私、何がいけなかったのかな?」

 ボソリと呟いた私の言葉に、ゴミを纏めていた真理子は怪訝な表情をした。

「可愛げが無かったのかな? それとも、毎晩ご飯作って待ってるせいで飲みに行けなくて重かったとか……」

 私が続けた言葉を聞いた真理子は顔を強張らせた。

「美雪! 美雪は悪くないよ。三国が見る目が無いの! あのぶりっ子にまんまと引っかかるなんて、ネズミ取りに引っ掛かるネズミレベルだわ」

 少しだけ声を荒げた真理子は、すぐに落ち着きを取り戻すとふぅと息を吐き、私を見た。

「ねえ、美雪。今日はうちに泊まりにおいでよ。そうすれば、布団も今日のうちに片付けておけるし」
「え、いいの?」
「いいよ、大歓迎。来て来て」

 真理子にお誘いされて、私はお言葉に甘える事にした。なんとなく、今日はあのベットで眠りたくない。
 段ボール箱しかないがらんどうの部屋を見渡し、忘れ物が無いことを確認すると私はドアに鍵を掛けた。

「あれ? 何かゴミ袋に入れ忘れてた? 全部一纏めにしたつもりだったんだけど」

 エレベーターに乗り込むとき、真理子は私が大きなゴミ袋と一緒に持つ、小さなスーパーのレジ袋を見て怪訝な顔をした。

「うん、ちょっとね」

 私はそれを不燃ゴミのボックスに捨てる。ボックス中で他のゴミとぶつかったのか、カシャンと陶器のぶつかり合う音がした。

 レジ袋の重みが手から消え、心まで軽くなった気がした。