ああ、私、面倒くさいお客さんでごめんなさい。

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 翌日出社すると、私のデスクの上には1冊のファイルが置かれていた。中を開くと、イマディール不動産が手掛けた1Rと1Kの物件情報が沢山載っている。

「それ、うちでリノベーションを手掛けた物件情報。今ちょうどオーナーさんが入居者募集しているやつだから、気に入ったのがあったら言ってよ。案内する」

 パラパラと捲っていると、前に座る尾根川さんが声を掛けてくれた。私は頷いて、置いてあるファイルに視線を落とす。パラパラと捲って見るかぎり、広さは20から30平方メートル位が主流のようだ。リノベーションするくらいなので、築年数はそれなりにいっている。だいたい、築20年から築30年位が多い。けれど、写真で見る室内の様子はまるで新築みたいだ。

 リリリーンと電話が鳴る。

「はい、イマディールリアルエステートです。はい、はい……。今日これからですか? 少々お待ち下さい……。大丈夫です……」

 電話に出た、正面に座る尾根川さんは話ながらペコペコと頭を下げ始めた。電話なのに、まるでそこに人が居るみたいな態度だ。電話が終わると、尾根川は私に向かって両手を合わせるポーズをした。

「藤堂さん、ごめん。栗川さんがこれからリノベ終えた物件見たいって言ってて。行かないと」
「栗川さん?」
「うちのお得意様だよ。社長が前の会社の時代からの大顧客。何軒も不動産を持っている、すっごい大金持ちなの」

 綾乃さんが横から解説する。なるほど、それで電話なのにペコペコしていたのかと私は納得した。

「凄い人なんですね」
「うちみたいな若輩の不動産屋にとっては神様だよ。まさに、神様、仏様、栗川様。社長がここに開業した決め手の1つも、栗川さんのお宅が近いから。あともう1人神様がいて、その人は桜木が担当してる。その人もこの辺に住んでいるのよ。すっごい大豪邸」

 綾乃さんはなむなむと仏さまに祈るようなポーズをした。