夕方になって自席に座ると、隣の席の綾乃さんが話しかけてきた。
「藤堂さんって、どこに住んでるの? 今日、簡単に歓迎会しようと思うんだけど、行ける?」
「あ、行けます。家は***駅なんです」
「***駅? 遠くない??」
駅名を聞いた綾乃さんは目を丸くした。私の住む駅は埼玉県の東京寄りに位置しているが、ここまではドアトゥドアで1時間半位かかる。
私は結局、英二と住んでいたあの家から未だに引っ越せずにいた。確かに、今朝初めて通勤してみたが、殺人的な通勤ラッシュの中で電車に揺られる1時間半は辛かった。もう少し近いところに引っ越したいとは思う。
「引っ越したいんですけど、まだ物件探しをしてなくて」
「え、じゃあうちの手掛けた物件に住みなよ。家賃補助が少し高いから。一緒に探してあげる」
「でも、この辺だと高くないですか?」
「大丈夫。うちのリノベ物件だったら半額補助出るから、高くないよ。だって、板沢さんは中目だし、尾根川君は恵比寿だし」
「ナカメ?」
私は首を傾げる。聞いたことがない地名だった。
「中目黒」
「えー、凄い!」
私は目を丸くした。中目黒とは、渋谷駅から電車で二駅、距離にして数キロほど横浜市寄りにある駅だ。恵比寿は山手線沿いで渋谷駅のすぐ隣だし、地下鉄に乗れば広尾からも一駅でつく。どちらも、雑誌の『住みたい街ランキング』で名前を見たことがある。『住みたい街』と言うくらいだから、多くの人は住みたくても住めない街ということだ。そんなところに住めるなんて凄いと思った。
「凄くないよ。僕のマンションの家賃は10万円だけど、僕の負担額5万円」
正面で話を聞いていた尾根川さんが苦笑する。
「え? そうなんですか?」
私は思ったよりも良心的な額に驚いた。たしかに、午前中の福利厚生の説明で、家賃負担は通常3割だけれども、イマディール不動産が手掛けた物件なら5割だと言っていた。負担額5万円なら、私にも払える気がした。
「藤堂さんのおうち探し、明日しようよ。いいのが沢山あるよ」
「いいんですか?」
「いいよ、いいよ。藤堂さんの理想の物件探し、お手伝いします!」
尾根川さんは得意げな顔をしてそう言うと、口の端を持ち上げてニヤッと笑った。
「藤堂さんって、どこに住んでるの? 今日、簡単に歓迎会しようと思うんだけど、行ける?」
「あ、行けます。家は***駅なんです」
「***駅? 遠くない??」
駅名を聞いた綾乃さんは目を丸くした。私の住む駅は埼玉県の東京寄りに位置しているが、ここまではドアトゥドアで1時間半位かかる。
私は結局、英二と住んでいたあの家から未だに引っ越せずにいた。確かに、今朝初めて通勤してみたが、殺人的な通勤ラッシュの中で電車に揺られる1時間半は辛かった。もう少し近いところに引っ越したいとは思う。
「引っ越したいんですけど、まだ物件探しをしてなくて」
「え、じゃあうちの手掛けた物件に住みなよ。家賃補助が少し高いから。一緒に探してあげる」
「でも、この辺だと高くないですか?」
「大丈夫。うちのリノベ物件だったら半額補助出るから、高くないよ。だって、板沢さんは中目だし、尾根川君は恵比寿だし」
「ナカメ?」
私は首を傾げる。聞いたことがない地名だった。
「中目黒」
「えー、凄い!」
私は目を丸くした。中目黒とは、渋谷駅から電車で二駅、距離にして数キロほど横浜市寄りにある駅だ。恵比寿は山手線沿いで渋谷駅のすぐ隣だし、地下鉄に乗れば広尾からも一駅でつく。どちらも、雑誌の『住みたい街ランキング』で名前を見たことがある。『住みたい街』と言うくらいだから、多くの人は住みたくても住めない街ということだ。そんなところに住めるなんて凄いと思った。
「凄くないよ。僕のマンションの家賃は10万円だけど、僕の負担額5万円」
正面で話を聞いていた尾根川さんが苦笑する。
「え? そうなんですか?」
私は思ったよりも良心的な額に驚いた。たしかに、午前中の福利厚生の説明で、家賃負担は通常3割だけれども、イマディール不動産が手掛けた物件なら5割だと言っていた。負担額5万円なら、私にも払える気がした。
「藤堂さんのおうち探し、明日しようよ。いいのが沢山あるよ」
「いいんですか?」
「いいよ、いいよ。藤堂さんの理想の物件探し、お手伝いします!」
尾根川さんは得意げな顔をしてそう言うと、口の端を持ち上げてニヤッと笑った。