私は少しだけ首を傾げた。
 言っていることはわかるけれど、いまいちピンとこない。尾根川さんは私の表情をみてそれを悟ったのか、今までイマディール不動産が手がけてきたリノベーション事例を見せてくれた。
 ダイニングルームが中央にある3DKの古い間取りが今どきの1LDKに変わっていたり、ただのお風呂がミストサウナ付きのものに変わっていたり。それは、私の知るリフォームの規模を遥かに超えていて、『作り替える』という言葉が近いように思えた。

「まるで中身そのものを作り替えているみたいですね」
「おっ。いい言葉を見つけたね。うん、作り替えるんだ。より価値が高く、お客様のニーズに合ったものへ作り替える」

 尾根川さんはニコリと微笑むと、持っていたリノベーション事例の写真をコツンと指で叩いた。

「僕たちは物件を売りたいお客様の所有する物件に、その場所とニーズに合ったリノベーションを施して、価値を高めて次のお客様に売る。何もしないときに比べて数段高く売れるから売り手のお客様には喜ばれるし、新築を買うよりは遥かに安いから買い手のお客様にも喜ばれる。あとは、既に売りに出ている物件で将来の値下がりリスクが少ないところを狙って購入して、そこをリノベーションして転売することもある」
「へえ……」

 私は前職でも不動産屋で働いていたけれど、そこでの仕事は物件を貸したいお客様から頂いた物件情報を掲載して、借り手を探すというものだった。その際の仲介手数料が不動産屋の収入になる。
 しかし、イマディール不動産の稼ぎの仕組みは、前の会社とはだいぶ違うようだ。同じ不動産屋なのに、仕事の中身の違いに驚いた。そのことを話すと、尾根川さんは「そうだね」と頷いた。

「同じ不動産屋でもやることはだいぶ違う。けど、一緒のこともある」
「一緒のこと?」
「うん。つまり、僕らの仕事は『お客様の理想の物件探しをお手伝いする』ってこと」

 前職の賃貸物件の仲介もイマディール不動産のお仕事も、本質はお客様の物件探しのお手伝い。
 その言葉はストンと私の腑に落ちた。そう言われると、何だが自分も力になれるような気がしくる。私は尾根川さんに「はい、そうですね」としっかり頷いた。