眉尻を下げ少し困った風な顔をする男に、私はふんっと鼻で笑ってから、十字架に目を向けた。
歌詞を見る為多くの人が下を向く中で、私は妙に堂々と前を見据える。唇を固く結んだ。
ほらね、神様。
私今日は、讃美歌を歌わない。
真横からも歌声は聞こえなかった。私に付き合っているのか、遠野君まで歌わないつもりらしい。
チラリと見上げたら目が合って。
またニヤリと笑われた。
(同情なんかすんな、バーカ)
私の頭の中に、オフィスの物陰からこちらを楽しげに見る遠野君のイメージが浮かぶ。手には三十センチ定規。ニヤリと笑うとメモを取る――そんな感じ。
完璧に胸に隠していたつもりの一喜一憂を、こんな朝顔好き悪魔に観察されてたとは……!
仕事がデキる後輩だと喜んでいた私がマヌケだった。一緒に仕事をしつつ、この後輩は私を観察して楽しんでたんだっ、ムカつく!
讃美歌斉唱が終わって式が更に進む中、まだ横でニヤけてる遠野君の脇腹を私はつついてやった。