会社では隙も見せずクールな印象が強い遠野君だけど、この反応はそれが一瞬崩れるので面白い。

思わず吹き出してしまった。


「さあ先輩。試練の披露宴、頑張りましょうね」

「遠野君って本当一言多いよね」

「良いデータ待ってます」

「はあ?」


頭上で教会の鐘が鳴り響く。

始まりを告げそれを祝う鐘の音。

そこに埋もれそうだった遠野君の言葉を、私は聞き逃さなかった。


「データって……まだ人の事観察するつもり!? やめてよっ」

「嫌ですよ、勿体無い」

「勿体無いとかそういう問題じゃ……。ちょっと遠野君! 聞いてるの?」

「ええ、一応」


楽しげな表情でスタスタ歩き出す遠野君を、私は小走りで追いかけた。

今日はまだ、傷心的な瞬間を何度も味わうかもしれない。

でも、この生意気で悪魔気質な後輩がいたらそれも少しは紛れるかも――?

そう考えたら、可笑しいけどホッとしてる自分がいる。


「変なの……」


前を行く遠野君の背中が頼もしく見える……なんて、ね。



end