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 放課後、指定された学校の教員用昇降口で待っているとよっちゃんは約束通り誰よりも早く来てくれた。その後すぐ到着した事前に手配していたというタクシーに二人で乗り込んで、よっちゃんの父親が院長をしている大学病院へと向かう。

 都内でも俺の入院している病院とは電車4駅ほどの場所に建物はあって、さすが病院長の息子が隣にいるお陰で受付を通さずに集中治療室に向かえたのは気を急いでいる俺には好都合だった。


──────「星村深青」。

 そのネームプレートを見るだけで逡巡する俺に、口に人差し指を添えてゆっくり戸を引いてくれたのはよっちゃんだ。

 開けた視界にいた。そこにいた。あった。俺が護りたくてずっとずっと探していたものは、───目を閉じて眠っていた。

 白い肌に、夜みたいな紺色を帯びた黒い髪。個室の天井には星のウォールステッカーが成されていて、狂い咲きする桜みたいに、その一つがまだ暗くない部屋の一角で間違って光るのを、綺麗だと思った。



「事故のショックで意識を失ってから目が覚めてないけど、お前がとっさに庇ったお陰で奇跡的に外傷はない。
 ───“片側二車線の歩道橋、それも5メートルの高さから落下”して左脚の複雑骨折、折れた肋骨が胃を損傷して一時は本当に危険な状態だった。それなのに無傷のこの子より先に目を覚ましたんだ、超人かお前は」

「………言おうと思ったんだ」

「…え?」

「思い出したって。
 俺たちずっと、出逢う前に出逢ってたこと」


 だから手を伸ばした。伝えようとした。死なせるわけにはいかなかった。酸素マスクを着けて瞼を伏せたその身体は、確かに、呼吸をしている。でも覚まさない意識を目の前にして、今になってやっとその意味がわかった。


「あいつが怯えてたのは夜じゃない。

 自分を殺そうとしたその日から、生きることを怖がってたんだ」


 ミオが俺の胸で泣いたとき閉じ込めて離したくなかったのは、きっと、そのせい。

 探していたものに辿り着けたと思ったのは、そのせい。