「だからこれは、きみが僕の代わりに持っていて。
 きみの重荷になるのなら、誰かに託すのもまた一つだ」


 直接的に目の前の少年の命の期限を知った訳ではないけれど、その行動が全てを物語っていたと思う。同じ時代に生きて、同じ瞬間にここにいるのに、その先の長く続いたレールは多分、俺より先に、こいつは途中で途切れている。

 全部を悟ったみたいにそれでも笑顔でいるから、受け取らない理由も見つからなかった。だから黙って受け取った。どうするかはわからなくても、これはいずれ、少年の、

 拓真の形見になる。


「お願い染みたお礼でごめんね」

「本当だよ」

「あ、そうそう。あとこれは宇宙飛行士の間で話題の言い伝えなんだけどね。
 まだ多くの目に触れられていない星は、願い事を一つだけ叶えてくれるんだって」


──────きみの願いが、この星に届きますように。










 蒼く光るその星を、あいつと別れてから手でぶら下げて光に透かした。

 きらきらと煌めく星は夜空に浮かぶ儚い光というより、海が陽の光を受けて瞬くような、頻りに降り続けていた雨空が晴れるあの、雲の切れ間から覗く太陽みたいな強さがある。

 
「───ねぇ、また暴れたってほんと?」


 看護師の言葉が耳を掠めたのは、俺がペンダントに見惚れていた直後だ。
 顔を上げるとカルテを持った看護師とワゴンを押した看護師がそれぞれ向かい合って声を潜めていて、奥にある病室を見つめている。


「らしいわよ。なんかね、あの子の場合ちょっと特殊なのよ、普通の子らとちょっと違うっていうか」

「狂気染みてるもんねぇ、やだなぁ私今日夜勤なのに」

「気をつけて、噛み付いたり引っ掻いたりしてくるから。施設の老人たちと変わんないわよもー。

 夜が怖いってのはわからないでもないけど…あれだけ症状が重篤だったらこの先不安。ちょっと困りものよねえ」


 その部屋を通りすがるとき、ふとネームプレートを見上げた。


「……ふか……あお」


 人より漢字は苦手で、眉間に皺を寄せて目を細めてみる。誰かがきっと隣にいたら、違うよ○○だよ、と訂正の言葉が入ったのかもしれない。