言葉の意図が汲めずに返事が浮かばないでいると、「あ、そうだこれ」と黒髪がズボンのポケットから何かを取り出す。
「きみにあげる。助けてくれたお礼」
握った手を開くと現れる、蒼く煌めく、光。
雫型をした透明の硝子の中、寄せては返す波のような蒼い砂のペンダントに、一瞬間の抜けた声が出る。少なくとも俺が生きてきた9年間で見る、ガラスケースの中に飾られた指輪やネックレス、ペンダント。そのどれよりも綺麗な輝きを放っていた。
金一封を目の前にした悪代官みたいな反応をしていたと思う。散々見惚れてしまってから、はっとして我にかえる。
「…お、男にペンダント?」
「ごめん。でも今僕があげられる一番大切なものってこれだから。
僕の父さん、宇宙について研究してる人なんだ。これも実際、不時着した天体で見つけた星の破片」
「不時着…!? 星の破片!?」
「星ってね、表面温度と年齢、その質量で色が変わってくるんだ。僕らが地上から見たとき眩しくてすぐに見つけられるのは、大抵が青い星。核反応が弱くて温度が低い赤い星に比べて、太陽の二倍以上のエネルギーを急激に放つからより輝いて見えるんだ。それだけの燃料を放出するんだ、星は若いうちに死んでいく。青い星が短命なのは、そのせい」
「青く光ってる…ってことは、じゃあ、これも重くて若い星?」
「うーん。ちょっと意地悪したね。あくまでそれは地上から観測した星の観え方の話で、“星”を実際地球に持ち帰ったらその辺にある石と判別付かないと思う。赤い恒星ですら2000度にも到達する、それも死んだら爆発と共に消失する。だとしたら多分、これは」
「…星じゃないんじゃ」
「乃至、爆発の拍子で惑星に到達したとある恒星の死骸」
死骸! 俺、人助けして死骸突きつけられてんの!
その瞬間虫や動物が息絶えてしまった姿を瞼の裏に見て、すぐさま突き返そうとする。も、黒髪はそれを静かに手で制した。
「でも、父さんはこれを星だって言った。もっと大きい個体だったそれを、不時着の混乱に乗じて破片だけ持ち帰ってきたんだよ。未観測の物質は本来、発見者を軸に名前が付けられたり研究の対象になったりする。でも内密にして僕に託した。粉末にして硝子の中に入れてね。星の亡骸を閉じ込めたそれを、僕は遺骨ペンダントって名付けた。もらってから今日まで、ずっと大切にしてたんだ」
「何それ、めちゃくちゃ大事なものじゃん。たとえお礼って言われても貰えないよ。そんな大切なもの、なんで手放して俺にくれようとするんだよ」
「…僕と一緒に燃えて死ぬのは、可哀想だと思ったから」
一瞬、その言葉の意味がわからなかった。
人は、死んだら、その棺桶の中にその人間の生前好きだったものや、宝物を一緒に詰めて火葬する。服や靴に、花。その中にはきっと、この黒髪の場合、星の遺骨も含まれているのだろう。
どの星も最期は、燃え尽きて死ぬ。
その結果奇跡的にヒトの手に渡ったこの蒼い星を、わざわざ宇宙と地球で、二度死なせてやることはないというのだ。