ツーッ、ツー、ツー。


 切れてしまったスマホに視線を落とし、呆然とする。

 なんだ、今の。


「起きたんだ」

「っ!」

「寝てたからさ。起こさないように降りたんだ。わからなかったでしょ」


 いつのまにかTシャツとジーンズに着替えたミオが、大部屋の入り口に立っていた。その目はたしかに昨日ここで抱きしめた彼女だったのに、黒目がちで寒気がする。何かがおかしい。胸が騒つく。脳が、警鐘を鳴らしている。


「悪い子だね、恭平」


 ここにいてはいけない。



 途端左足のことも構わず、弾かれたように駆け出した。

 どこへ行く。どこでもいい。ここではないどこか、ここじゃないどこか、どこか、どこか遠く、


────────あいつから遠い場所。


 誰ともすれ違わない閑散とした病院を走り、足に鞭を打ったせいで激痛が走った。胃も痛い。体のそこかしこが悲鳴をあげているのも構わず、正面玄関は駄目だとすぐにわかった。何故かはわからない。だからすぐに逃げる必要があった、

 屋上へ。



 重たい鉄製の扉を開け放つと、朝が一面に広がっていた。白い光の中に太陽が浮かんでいて目が眩む。

 足音がして振り向くと、俺を追ってきたミオがすぐ近くまで迫ってきていた。

 一歩。また一歩、と距離を詰めるミオに、俺は左右に首を振る。


「っなんだよ……なんなんだよ、お前!」

「恭平」

「触んなよ!!」


 伸びてきた手を咄嗟に払うと、ミオのペンダントがきら、と光った。蒼白い星の光。ぁ、と小声を漏らす俺に、振り向くミオの笑顔。