「…いいよ」

「あ?」

「き、恭平がそんなにあたしと添い寝したいってんなら」

「おいやめろ。その表現語弊が生じるわ」

「お前が寂しいなら寝てあげてもいいけど!」

「おめーだろ寂しいの! なにその上から目線!」


 思わず叫んだらしーっ! と指を突き立てられた。

 アホ毛を何本か立たせていやいやいや、と白ける俺に、でも不安げに布団の中からこっちを窺うミオの目は弱く、脆くて。


「…きて」


 今、彼女が甘えたように縋る事が出来るのは、自分しかいないんだと思った。

 あくまでミオのカルタ…カタ…カルタなんとかだからな俺は、と自分の中で納得し、一方でここで引いたら男が廃るとか心を鎮め、何事もない体で誘われるままに布団に、潜り込む。

 いや、でも。17、8の男女が一つのベッドで夜を共にするって。それで普通に朝を迎えようとするってそんな、普通に、


(眠れるわけねえええええ)

 ほぼほぼネズミの心臓ばりに鼓動が鳴っていた。大丈夫かこの鼓動バレてないかと冷や汗ダラダラで振り向く俺に、でも少し奥へつめたミオはあくまで不安げに、夜に怯えていた。だからそんな邪なことを片時でも考えた俺の酔いみたいなのも、途端すぐに冷めてしまった。


「せま」

「う、うん」

「…」

「…」

「言っとくけど変な気起こしたら左足へし折るから」

「安心しろ頭ん中で素数数えてるから」

「そんなもん数えてる時点で安心出来ないわ」


 男ってなんでこう、と理性やらなんやらかんやらと戦いつつ脳内で素数計算に興ずる。でもそれじゃただ一人遊びになっているだけだし、と考えあぐねてしばらくしてからちら、と隣を見た。


「しりとりする?」

「え、なんで」

「いやなんとなく」

「しない」

「あっそ」

「…」

「…」

「手」

「ん」

「手、繋いでもいい?」

「…いいよ」


 不安げに懇願したミオに、布団の中で手を貸したら自分より遥かに小さく、細くて華奢な手が重なった。あんまり強く握ったら壊れてしまいそうで怖くて、微かに握り返したらきゅ、と頼りない指先が小刻みに震えていた。

 だから堪らずその手を引いて、自分の胸に閉じ込めた。
 手探りでここにいる俺をそれでも探しているようなミオを、確かに、ぎゅっと抱き寄せる。


「…恭平」


 夜空を、星が流れた気がする。

 まだ明けない夜の中。涙声で俺を呼んで、ほっとしたように背中をきゅっと掴む彼女を前に、何故だか俺は。


 探していたものにやっと辿り着けたような気がした。