発作だ。
よく見れば彼女は小刻みに震え、外は暑くもないのに身体中から脂汗をかいている。蚊の鳴くような声がそれでもまだ酸素を過度に取り入れようとするから、手で口を塞いだのに乱暴に振り払われてしまう。
夜驚症って寝てる間に発症するのが全部じゃないのか、他にミオは何に怯えてるっていうんだ。
「ミオ、落ち着け」
「──ぅっ、っ、─、」
「俺を見ろ」
「っ」
「ミオ」
顔を傾けて、それから唇を押し当てた。
一瞬固まったミオがハッとして俺の肩を押しても、その手を掴んで更に深く重ね合わせる。
それから、どれくらい時間が経過しただろう。
星空の下でするには、無骨で強引なキスだった。
ファーストキスと呼ぶには、あまりにロマンに欠けたものだった。
やがて彼女の肩の緊張が解けたのがわかると、そっと唇を離す。お互い吐息が漏れて、一度宙を泳いだ視線が同じタイミングでぶつかった。
「…」
「…」
「…いま、恭へ、」
「人工呼吸は」
「え?」
「人工呼吸はキスのうちに入んないっつってた。人命救助だから。だから、ノーカン」
「…」
「わかった!?」
「あ、うん」
「ったく、いきなり発作起こすんだもんお前。マジびびった、困るからホントやめろ」
「…ごめん。ところでカウントって何」
「話をそこに戻すなよ!」
立ち上がって丘の上で地団駄を踏む。せっかく人が話題逸らそうとしてんのにこの女はその気配りをまったくもってわかってない!
「こっちは、だからその…き…すすんのが! はじめてだったら申し訳ないって思ってだな」
「…恭平初めてだったのか」
「そうだよ! お前は!」
「初めてじゃないけど」
「えっ」
「なんて嘘」
「は!?」
「あたしも、初めて」
立ち上がって、星降る夜の風に黒髪を靡かせたミオがそう言って笑うから、一瞬ちょっとだけ、言わないけれど、その姿に見惚れてしまった。
☾
その後俺とミオは一時間くらい星を観て、夜勤の看護師にバレないうちに早々に切り上げることにした。
正直夜空はまだまだ見ていられたけれど、万が一巡回の看護師にバレたら言い訳が効かなくなるし、俺はともかくミオが外出禁止なんて罰則まで食らったら元も子もないからだ。
で、元来た道を戻る折、二階の非常口の扉から実はめちゃくちゃ近かった誰もいない俺の病室に戻ってそのままじゃあなって別れようとしたら、ミオに服の裾を掴まれた。
「まだ帰りたくない」
…そんなこと言われたら、もう。することは一つだろ。