「いねーじゃねーかよ」


 ミオの病室を見つけるのに、そう時間はかからなかった。
 以前、夜中に起きてミオの発狂を目撃したとき他の看護師が叫んでいた部屋番号を覚えていたからだ。

 俺の記憶力がすごいってわけじゃない。030号室。そのまんまミオだなって思っただけ。一度聞いたら忘れない。───で、わざわざ足を運んだってのにこれだ。

 人のいない病室では、開いた窓から風を受けた青色のカーテンが風船みたいに膨らんで揺れていた。

 病気が病気ってこともある。
 5、6人が過ごす大部屋で夜中に発狂しては困るからと追いやられたのかもしれない。それとも初めからこの場所でミオはずっと過ごしていたのか、

 ミオの一人部屋は、白くて、青かった。



 昼間ではわかりにくいけれど、夜になるときっと星色に光るウォールステッカーが天井に無数に散りばめられていた。
 思えば角部屋のミオの部屋の窓からは病院の外の景色、一面に広がった街並みと、鉄塔が見える。一階でも病院自体が高台に建っているってだけでこんなに景色が一望出来ては、夜に本物の月や星も見えるに違いない。


───あたしは夜が怖い。眠るのが怖い。ずっと深くて暗い場所で、次に目を覚ませるのかどうか不安になる


「…こんなに貼ってたんじゃ逆に眩しくて眠れねーよ」

 こんなに光ってても怖いのかよ。

 暗い夜にひとりで怯えるミオを思うとちく、と胸に痛みが走った。思わずベッドから顔を背けたら、その隣にあった木製の本棚が目に付く。拓真の部屋にあった棚と少し似ているけど、中は児童書だらけだ。

「…なんとまぁ保育所チックな」

 子供たちにする読み聞かせの予行練習とかここで一人でしてたりして。へー熱心熱心、と屈んで人差し指で一つ一つの絵本の表題に目を通して行きつつ、ふとあることに気がつく。

 …これ、


「背後とったり」