「おい、みおー」


 気が付いたら忽然と姿を消していたミオを探して、病棟の屋内へと戻る。

 中庭ではしゃぐルナの声がやがて遠ざかり、聞こえなくなると、シンと静まり返った廊下でてんけ、てんけ、と俺の松葉杖の音だけが響いた。


「…ったくどこ行ったんだよあいつ」

「ちょ、ちょっと頼むよ、やめろってレオナちゃん!」


 ばりん、と何かが激しく割れる音に振り向いた。目を凝らすと、廊下のはたに一人の金髪白衣のナースと、それを取り囲むように慌てふためく数人の入院患者の姿。

 一瞬、我が目を疑った。

 彼女が、レオナちゃんが気が触れたように狂乱しては、両手に持った酒瓶を次から次へと叩き割っていたからだ。床目掛けて投げた酒瓶は破裂、四散し、破片は彼女の白い肌に赤い線を作った。極め付けに、手にしていた白い箱をばらばらと水の入ったバケツの中に落っことす。それはタバコの箱のようにも見えた。

 少し離れた場所でやめてくれ、と制止を乞う声は彼女に届いていただろうか。それでも続行する横顔に、淀みない動作に迷いはない。


「なぁ、おれたちが悪かったよレオナちゃん、おれたちが悪かった、でもだからってなんでこんな、ああっ……」









 悲愴に崩れ落ちる患者と、騒ぎを嗅ぎつけて殺到する人の群れ。
 騒音が行き交うその場所で破片が割れる音だけがやけに、酷く鮮やかに。



 ばりん、と耳の奥で鳴った。