「だから僕らは失わないために、二度とない今日を生きることにしました」
「恭ちゃん! ミオちゃん、たっくん、みて! 虹、虹だよ!」
いつの間にか花壇脇にあった水遣り用のホースリールを引っ張り出したルナが、フックに手をかけて空に水を放った。
それは後に雨をもたらし、夏場のミストシャワーみたくひだまりに満ちた空間を光の塵になって跳んだ。
やがて太陽光に晒されて七色に変わった瞬間、息を呑むような光景に目が眩む。
──────虹。虹だ。
幼い頃。もう遠い昔。小学生くらいに空に向かって指をさして、必死に伝えたくって、大人の手を引いて笑った世界が、こんなにも近くに今、ある。
ルナの姿がかつての自分と重なった。妹にも似ていた。虹の使いのようにくるくると回って、光の渦を織り成すルナが見えてるって訊くから、俺は見えてるよ、って答える。
見えてるよ、ちゃんと。
「当然にあるものを慈しむと、人は揶揄します」
拓真の声がする。
「でもここにいる僕らには、確約された明日がない。
いや、命の危機に瀕していずとも、今を生きてる、誰にだって言えること。
また今度、そのうち、きっと、なんて。どうして言えるんでしょう。
絶対、なんて絶対ない。
いなくならない曖昧な保証になんて、驕りたくないです」
歯を見せて笑う。そのとき見た拓真の顔が一番、今まで見てきた中で年相応の顔をしていた。
「僕らの今日は、かけがえのない奇跡の積み重ねで成り立ってるんだから」