「………いやお前顔赤…」
「うっ、! るさいばかっ! 離れろっ!」
どん、と軽く押すのに俺がペンダントに触れているせいで勢いを相殺したのか、ミオはこの距離間にしどろもどろしている。あんまり真っ赤で、しかも困ったように上目で睨むから悪戯心が疼いてしまう。
「…お前さては男慣れしてないな」
「っ! そ、づ、う」
「そこで吃られるとこっちがやり辛いわ」
へえー? とか真っ赤になって冷や汗を垂れ流すミオの周りをニヤニヤしながらぐるりと回って、我ながら後になって思えばウザいし小学生みたいな絡み方をした。
俗に言う、好きな子を苛めたくなる原理ってやつだ。…いや好きじゃないけども。でも長いことそのペンダントに触れられているのが嫌だったのか突然どん、と俺を跳ね除けると、ミオはペンダントを握ってぎゅっと俯く。
そんで、20秒後に俺は、今からする質問に対して聞かなきゃよかったなんて自分を後悔するハメになるんだ。
「どうしたんだよ、それ」
「…」
「言わないんならみんなに言いふらしちゃおっかなー」
「! ───っ…初恋のひとに、もらった!」
「、」
「…9歳のときに」
瞬間、視界のはたを電流が迸った。
学んだことが二つある。目眩がしたら人は漏電を起こして、人間は心の底から傷つくと、どこからともなく硝子が割れるような音を聴く。
呆然としていたら、振り向いたミオにまた怪しげに下から覗き込まれてはっとした。
松葉杖を握り直して、酔いが醒めた世界に金にもならない悪態をつく。
「へー初恋。そりゃ大層なこって」
「…」
「今でも好きなん、てか好きだから持ってんだよな後生大事に、っかー妬けるねーっ」
「…何拗ねてんの」
「拗ねてねえ!」
カッとなって吠えたところで、すみません、と俺とミオの間を大人数人が会釈しながら通り過ぎていった。家族連れだ。時間的に見て、面会だろう。俺たちを抜けた先の病室でにわかに届く励ましや笑い声を聞きながら、すぐ近くで行われている家族団欒に少し羨ましい、と思う。
「っておい!」
ぼーっとしていたら廊下の突き当たり、既に小さくなったミオが曲がり角に消えた。