体が虚弱でいつ発作に見舞われて倒れてしまうか分からないルナ。
酸素ボンベを担いで車椅子に乗る拓真。
そして夜驚症のミオ。
小児病棟で戦っているあいつらとは、比べ物にならない場所にいる。治療法があって手術で治る俺なんてきっと簡単でちっぽけだ。ちょっとの痛みは伴うのかもしれない。でもいずれ終わりを迎えるそれなら、きっとどうってことはないはずだ。
「…………けどそう言われてみればなんか痛いような気もしてきた」
「難儀なやつだな」
あれ、と思いつつじくじくと痛み出す腹部を手で抑える。おかしい。なんでださっきまで全然平気だったのに。
まさか手術失敗したんじゃ、と一瞬は不吉な予感が頭をよぎったが、俺の予想に反して突如込み上げてきた痛みは、さっと何事もなかったみたいに通り過ぎていった。そう、まるで波が引くみたいに。
心配そうにするじいさまをよそに将棋を指す。その日は、長期戦だった。前は三十分くらいで勝負がついたけど、今日は話をしながらという点を差し引いても、もう一時間以上は経っていた。
勝負に集中するあまりお互い黙りこくってからしばらくした頃、ふと寝台横の貯金箱に目がいった。
じいさまと将棋で戦い、負けた方がお金を入れる例の貯金箱だ。無骨な黒の缶。───…畳の奥の、縁側の角にある。でも普段は手が届かないよう、衣装タンスの上から高々とこっちを見下ろしていて。だからそれが気になって。蒸し暑い夏の日に、それが何なのか、見上げて指を指して怒られた。
怒、られた。
(誰に?)
「おい」
「んぉ」
「お前の番だぞ」
「あ、ごめ」
やべ、と慌てて駒を動かしたせいであらぬところに指してしまい「あっ」と口に出す。でもそれがかえって良かったのか、じいさまは若干目を細めた。
本来、原則として将棋の勝負中に私語は厳禁だ。
勝負に気が散ってしまうし、大体勝つか負けるかのときにべらべら相手に話しかける棋士なんて普通いないからだ。趣味で行うそれでも大まかには同じこと。
じいさまが他の相手とどんな対局をするのか知らない。
だからなんとも言えないのだけれど。例えば、相手が俺じゃなかったとして。それでもじいさまは俺みたいに、対局中話しかけてきただろうか。