「わざわざ自分からカモに立候補するとはな。
 周りの老人共に毒されていよいよ焼きが回ったか」

「初めて見た時から思ってたけどじいさま、あんた友だち少ないだろ」


 半目で言うと将棋盤にぱち、と駒を指す。

 例によってじいさまの寝台脇、患者衣の襟に万札を差した俺の姿はまるで海外でいうチップか何かの類そのものにも見えるが、これって絶賛俺の全財産なだけに事は慎重を要する。


「金ヅル探してんのは知ってたけどしょっちゅうやってたのあれ。そりゃあんな対応にもなるわ、目があった人間手当たり次第引っ掛けるとか体のいいカツアゲだからな」

「カツアゲか。腕白だな」


 そんな可愛いもんじゃないやい、と睨むのに何が面白いのか、じいさまは低い声で笑った。目尻に皺を作って笑うじいさまを見ながらどうしようもねえな、と思う。その傍らで、俺がやんちゃをした時に妹がよく言う決まり文句「男のひとってどうしてそうなの!?」というワードがふと脳裏をよぎった。

 円。言ってやってくれこの爺さんに。今ならお前の気持ち、わからんでもないぞ。

 自分のターンで考えるふりをして、唇に手を添えるとじいさまを盗み見る。への字に曲がった口角に、眉間に深く刻まれた皺。真っ白な髪に、年老いて少し緑がかった目を見ていると座り直す拍子にこつ、と後ろ手にそれが当たり、存在を思い出した。


「ま、でも良かったじゃんじいさま。こーんな若くてかっこよくて見目麗しい友人を得たんだ、鼻も高いだろ」

「寝言は寝て言え」

「ほー。いいのかな〜? 今の俺にそんな口叩いちゃって。じいさまがそう来るならこっちにも考えがある」


 訝るじいさまにすい、と背中から取り出した「それ」を掲げる。

──────医学書だ。

 拓真から以前借り、「持ち主に返しておいてほしい」と言う伝言を今、まさに俺は果たそうとしていた。

 またしても不意をつかれたような反応を示すじいさまに俺はへい、とそれをテーブルに置く。