「はー…やれやれだぜ、偉い目にあった。なぁミオ」


 ままごと、という名のドロドロ人情劇を終え肩を回す。自由時間が終わり、例の如く子どもたちが検査やら検温やらで病室に戻るのを見送ると多目的ホールは静寂に包まれた。だと言うのに、隣に立つミオは聞こえてるはずが腕を組んでそっぽを向いたままだ。


「おい」

「…」

「たかだかままごとだろ。何ムキになってんだよ」

「ムキになんかなってない!」

「なってんだろ現在進行形で」


 冷静なトーンで言ったらかえってそれが癪に障ったのか、キッと睨みつけられた。それでいてどこか拗ねたような反応にますます意味がわからず小首を傾げていると、バシッと着ていたパーカーを投げつけられる。


「いてっ! 何すんだバカ」

「恭平のバカ、タコ!」

「ぁあ!? てかどこ行くんだよ夜驚症克服の作戦考えんじゃねーのかよ」

「あたしは検査だ! てめー一人でやってろクズ!」

「……っはぁー!?」


 いきり立って叫ぶなりどかどかと歩いていく背中に訳がわからず叫ぶ。俺そんな怒らせるようなことしたか!?


「恭平さんって、結構ニブいですよね」

「拓真」


 さりげなくフレームインした車椅子がキ、と小さな音を立てて俺の隣に停まる。何が、と仏頂面で口を尖らせたら、曲がり角へと消えて行くミオを見送った拓真が、ゆっくりと顔を上げて。

 にこ、と微笑んだ。


「ヤキモチですよ」


「…誰が?」

「…もういいです」


 かく、と漫画みたいに車椅子の肘置きに置いていた腕を外す拓真に、一層理解が出来ず疑問符を浮かべる。ヤキモチって、あれか。俺にか。別にルナのこと取って食いやしねーよって言うのに、拓真にはやれやれといった感じで首を左右に振られた。なんなんだ。


「…つーかあいつ口悪すぎだろ。どんな教育受けたら一体あんな乱暴な口叩けるようになんのか、甚だ疑問でしかねーわ」

「それは、バレないようにしてるんじゃないですか」

「何を」

「さあ?」


 肩を竦めてすっとぼける拓真に、目を細める。


「人が嘘をつくのは決まって、自分か、大切なものを守りたい時の二つに一つです」