目の前が真っ暗になる。それって、と訊き返す前に医師がその場を軽く見回した。


「彼女のせいで怪我を負った者もいる。今この場にいないスタッフがそうだ。彼女の病気は既に小児病棟で手に負える段階を超えている、ましてや心身共に未熟な子どもたちの場合、体だけじゃなく本人たちの気付かない所で精神に支障を来すことだって考えられる。それは即ち彼らの術後の経過に影響を及ぼすということだ」

「…っ」

「もうその子の病気はその子だけの問題じゃないんだ。
 彼女のせいで、この病棟の患者が危険に晒されるんだよ。君だって、それは望んでないだろう?」
 
「…恭平、どいて」

「っけど」

「もういいんだ」


 医師の言葉に、俺の後ろにいたミオが俯いて前に出る。成す術はなかった。だって、そんな風に言われて何を言い返せるって言うんだ。
 
 他の患者に影響が及んでいることも。医師が言うんだから間違いない。事実きっとそうなんだろう。でもそれをミオの目の前で言う必要はあったのか。そんなこと言われてミオが首を縦に振らないわけがない。その為にここでみんなに尽くしてきたミオをあんたらは、
 
 子どもたちを理由に連れてこうって言うのか。
 

「…恭平」

 考えるより先に動いていた。反射的にミオの手首を掴んだことで、彼女が驚いたように振り返る。
 
「お前の意見を聞かせてくれ。他人のことはこの際全部無しにしろ。ミオが何を優先したいのか。俺はその通り動くから」

「…」

「ミオ、お前はどうしたいんだ」

「………あたしは……」


 真っ直ぐ睨み据えてやると、深い夜みたいな青に途端、星が散りばめられた。無数の光が散って、両目から溢れ出す。
 
 
「………みんなと、一緒にいたい」


 以外ねえだろ普通。
 
 軽く笑って、即座にその手を引いて背に回す。はっとして前のめりになった大人たちにばっと手のひらを突き出した。
 
「三日」

「なん」

「三日猶予をくれ。俺が入院してる残り三日。その期間に必ずミオの夜驚症を克服させる」