「ミオさん、恭平さんのことみんなに紹介する日なんかそわそわしてて。どうしたのか訊いても教えてくれなかったんですけど、今 腑に落ちました。二人は運命共同体だったんですね」

「そんな大層なもんじゃねーよ」

「でも、嬉しかったんだと思います、ミオさん。
 自分の病気と向き合ってくれる、こんなに心強い味方を得たんだ」

「その味方がもうちょいしっかりしてたら、今になってお前に医学書借りに来たりしてないだろうな」


 拓真の病室は一人部屋で、どこか閑散としていた。こじんまりとした部屋に必要なものはそう多くないらしい。子どもの病室によくあるクラスメイトからの色紙も、励ましの手紙も、それっぽいものはどこにも見当たらなかった。

 逸らした目はベッドシーツの皺を辿り、拓真が座る車椅子の酸素ボンベの管に行き着いた。寝間着の下に張り巡らされたその透明の管にまだ10の子どもが、生かされているんだ。


「…お前、前にさ。双子の件で俺が頭抱えてたとき、“恭平さんが拾うべきは核心であるミオさんでも僕でもない”って言ったよな。…あれどういう意味?」

 拓真の目が虚無を舐めて俺を射る。青みがかった深い紺。

「そのままの意味です」

「ミオについて何を知ってる」

「知ってることは恭平さんや、みんなと何も変わらないです。夜になったら、いや、夜が怖くてミオさんは眠りにつくことが出来ない。発狂してしまう。それにこの病院の人びとは手をこまねいていて、でも僕らにミオさんは欠かせない存在ってことだけ」

「じゃあ拓真はどうなんだよ」


 お前は何を抱えてるんだと言及したら、張りつめていた糸が切れたみたく笑った。年相応の顔だった。


「僕は探し物をしています」

「探し物?」

「はい」

「…何を探してるんだ?」

「形見です、僕の」

「えーと」

 ぽりぽりと人差し指で頰を掻く。

「ちょっと何言ってるかわかんない」

「僕の形見はミオさんが持ってます。欲しいのは経緯ですね、事の顛末。どうしてそうなるに至ったのか、もう曖昧にしか思い出せなくて」


 車椅子から少し前のめりになって話す拓真の目は少しばかり哀愁を帯びていて、どこか歳上を思わせるような落ち着きがあった。秋の終わりを厭うような横顔に10歳は時折、ずば抜けた感傷を魅せる。