深夜の病棟を、歩く。

 両脚に履いたスリッパは歩くたびぱす、ぱす、と音を立てるのに、静寂に満ちた廊下はそれっきり何も応えてくれない。

 消えかけの非常灯が頭上で警鐘を鳴らしている。

 それでも光に集う虫のように、煌々と光る電光プレートを見上げた。
 
 
 
 
 



[隔離病棟]








 行かなきゃ。
 
 扉に手を置く。力を込める。生温い外気が絡みつく。
 
  
『恭平』

「えっ?」


 聞き慣れた声だった。反射的に振り返ったが、あるのは先の見えない暗がりだけ。気のせいか。向き直る。

 闇から伸びてくる無数の手。
 
 
 
 
 




「!!」
 
 
 そこで、ベッドから飛び起きた。
  
 窓の向こうからちゅんちゅん、と小鳥の囀りが聴こえて、朝日は病室を照らしていた。汗だくになった体は荒く呼吸をしながら、乾き切った喉でなんとか生唾を飲み下す。



「………なんだ今の」