「引いた?」



 ミオ。

 

 反射的に大袈裟に飛びのき、挙句バランスを崩して椅子から転げ落ちる。地べたで慌てて体勢を立て直して見上げると、ミオが少しだけ、切なげに笑った。俺が受け取らなかったミネラルウォーターのペットボトルが、彼女の手中でまたちゃぷりと音を立てる。



「…本っ当に、日本の夜明けは遠くて嫌になる。それでも、視界のはたに恭平が見えてさ。あー弁解しとかないとって。もう手遅れっぽいけど。これだけ言っときたかったんだ」


 ぱくぱく口は動くだけで気の利いた言葉が出てこない。そのままなにも言えないでいると、彼女は勝気に笑った。


「土壇場とはいえ、お前の判断は賢明だったよ」

「え?」







「隔離病棟には絶対に近付くな」