「嫌ってほど見てますよ、きっと」


 一点の曇りもない、少し青みがかった、拓真の双眸。


「僕らには身に覚えがあります。目の当たりにしていて見て見ぬ振りをしている。そうじゃ無いかもしれないだとか都合のいい憶測と自分の無力を建前にして、汚いものは日常のベールで覆い隠すんです。関係ないって、たったその一言で防衛線を張って。…他人事なんかじゃ絶対ないのに」


 悲痛な言葉が、怒気を孕んで青い炎を宿しているように思えた。赤よりも温度の高い、冷静とこの上ない悲しみに打ちひしがれて。

 俺は続ける。


「…ルナが何度も小児病棟を抜け出そうとするのも、それと何か関係が?」

 見上げた拓真の顔が、ふっと綻ぶ。

 それがどこか、絶望の淵でそれでも諦めきれない何かに、希望を見出そうとしている勇ましさとも似ていた。

「子は親を選べませんから。“愛する”って、自然の摂理です」













「…全く意味わかんねーわ」


 言葉は色を伴って届くのに、これほど腑に落ちない理由がどこかにあるようで、辺りを見回しても見当たらない。
 考えることに思考をぐるぐる巡らせていたら結局不慣れな頭のフル稼働に身体が耐えきれず、絶対眠れないと思っていたのに迎えたその夜、いつのまにか闇に落ちていた。

 窓辺から覗く下弦の月明かりが綺麗だったのを覚えてる。