「よお。楽しそうだな俺も混ぜてくんない」


 隣に座り込んだら、シャボン玉ストローを咥えていたセナがギョッとして固まった。かと思ったらばしゃ、と思いっきりシャボン玉液をぶち撒けられて眼球に直撃する。


「ぎゃあああ! 何すんだてめえめっちゃ目に入っ…目が! 目がああああ!!」

「てんめぇどのツラ下げて来やがった!! きやすくとなりにすわってんじゃねーぞ! どっか行け!」


 うわああああすげえ痛いなにこれシャボン玉液って目に入るとこんな痛かったっけ。高速まばたきを繰り返してもそれが無駄だとわかると、充血した視界で逃げようとするセナの襟首を引っ捕らえる。ここで逃しては松葉杖ついて辺りを探した苦労が文字通り水の泡だ。

 懸命に逃げようと抗い引っ掻かれ、のたうち回り、げしりと顔面を蹴りつけられようとも、所詮は大の大人と子ども。そこは大人気なくも男子高校生の持ちうる全力で立ちはだからせてもらって、プロレス技をキメるのにまだぎゃあぎゃあ騒ぐ。しぶとい。


「はなせバカ!! クズやろう!!」

「バカでもクズでもいいから話聞けって頼むから!」

「お前さえ来なきゃこんなことになんなかった! しょーにびょーとーはへいわだった! お前さえいなけりゃミオに! ミオがっ…」

「ああそうだよミオに嫌われたな! けどここで逃げ惑ってたらお前一生仲直り出来ないかもだぞ」

「ミオはおれら置いていなくなったりしねーよ!」

「なんでそんなこと言い切れるんだよ、いついなくなるかなんてわかんねーじゃんそんなの。今日言えることを今言わなくて、明日いなくなって後悔してもお前同じこと言えるんだな!?」


 ぐす、と鼻をすする音の後に手の甲に熱が落下した。
 え、うそ泣くのここで。待て待て待て大声で泣かれたら何事かって嗅ぎつけてひとが、と反射的に思わず力を緩めたところで、

「いっ──────でぇ!!」

 最後の力を振り絞ったセナに、がぶりと左腕に噛み付かれた。


 ☾


「…おら」


 すんすん、と子どもが泣きじゃくる様は、どんなに生意気であっても、攻撃的であっても素直じゃなくても天邪鬼でも。万国共通みたいだ。

 赤く目を晴らして蹲るセナに自販機で買ってきたオレンジジュースのパックをぶら下げてやると、そいつは不本意そうに渋々それを受け取った。