すぐさま口々にスケベだの変態だのといったアンチワードが交錯し、その全てがぐさぐさと身体中に突き刺さる。違うこれには深…くもないけどわけが、と白目を剥きながら弁解しようとした直後、どんっと太腿に振動があった。

「ゔっ!?」

「違うもん! このお兄ちゃん、ルナのこと助けてくれたんだもん!」

 ねっ! と俺の足を力強く抱き締めて顔を上げるのは、まさに昨日小児病棟の外れで倒れ、集中治療室に運ばれていたあの子だった。子どもらしいふっくらした頬っぺたに色素の明るい茶髪、それから黒目がちの大きな瞳は、昨日と打って変わって生命力に満ちている。
 彼女の登場は他のみんなも意外だったのか、彼女によく似た顔の少年が慌てて身を乗り出した。


「ルナ!? お前いつのまに」

「今起きたとこ! お兄ちゃんがいなかったらルナ
、いまごろここにいなかったかも! だから悪く言うのやめて!」

「えーっ? ってことは、このひとミオが言ってた“しょうにびょうとうのえーゆー”ってこと?」

「えーゆーってなに?」

「正義のヒーローのことだよ」

「正義のヒーロー!? すっげえ! お兄ちゃん空飛べんの!?」


 待って空は飛べない。

 突然手のひらを返したように殺到する子どもたちに握手を求められ、揉みくちゃにされる。その際「お兄ちゃん背が高ーい」とか「かっこいいー!」とかまんまと乗せられたこともあり、彼らの誤解も晴れ俺の気分も上々で、案外悪くないかも、とか思えるんだから我ながら単純だ。

 そんなこんなで生まれて初めてのモテ期にヘラヘラしていたら、また隣でぱん、と手が鳴った。


「はい群がらない! こいつも怪我して万全じゃないんだ、とにかく仲間なんだから仲良くすること!」

「「「はーい」」」


 鶴の一声ならぬ、ミオの一声で子供たちは散り散りに、それまでいた持ち場に戻るんだからさすがだ。これも長い入院生活で得た子どもたちへの信頼の賜物なんだろうな、とか考えていたら突如、正面から思いっきり骨折している左脚を蹴り上げられた。