「なあ、本当にやんのかよ」

「当然」

「俺やだよ、苦手なんだって改まって人前出んの」

「これが“ここ”での通過儀礼だから。行くぞ」


 渋る俺の待ったも虚しく飛び出した背中に、マジかよ、と顔を手で覆う。

 彼女が出て行ったのは小児病棟の多目的スペースだ。本棚や遊具が所々に置かれ、甲高い声をあげて走り回ったり、静かに遊戯に没頭する児童が溢れかえるその場所で、ミオは全員の注意を引くようにぱんぱん、と頭の上で手を鳴らした。


「はい聞け皆の衆! 我らが小児病棟に新たな仲間が入った。その名も」


 ちら、とこっちに視線を向けてくるミオに舞台袖で屈んだままぶぶぶんと左右に首を振る。なんならそのまま抜き足差し足で逃げようとした俺に痺れを切らしたのか、ち、と舌打ちをするなりズカズカと踏み込んできたそいつに取っ捕まって、挙句どん、とみんなの前に晒されてしまった。

 てかもうちょい丁重に扱えよ、俺左足折れてんだぞ。


「あ、えーと…久野です」

「名前」

「恭平」

「総員、拍手!」


 なんだこの動物園のパンダみたいな気持ちは。

 まばらな拍手の中、ミオ曰く「新入り」の登場に物珍しさ満載の目を向けてくる子供たちに、これでもかというほど上から下までじろじろ見られては居た堪れなさすぎて笑顔が引き攣る。

 そうこうしていると騒ぎを嗅ぎつけたのか、単に多目的スペースに用があったのか。廊下から現れた車椅子に乗った黒髪の少年が、こっちを見て「あっ」と声をあげた。


「僕、あなたのこと知ってます! この前、ここ覗いてましたよね!」

「! いや違っ、」

「えーっ、お兄ちゃん覗いてたのー?」

「なんで!?」

「えっちー!」