それから何を話すでもなくただ刻々と時間だけが流れた。
時計が手元にないから今何時かもわからない。不思議とこういうとき、さっきまでの腹時計も作用しなくなり、なんなら空腹もとうに通り越して何も感じなくなった頃。
待ち合いのソファを斜陽が照らしている、と眺めていたら、ぱたん、と使用中のランプが消えた。
と同時に、扉が開き、数人の看護師と、ストレッチャーに乗せられた少女が出てくる。
「あの、ルナは!」
「安心してミオちゃん。またいつもの発作。でも今回はちょっと危なかったね、もう少し遅かったら手遅れだったかもしれない。強めの解熱剤を投与したから明日までは眠ったままだと思う。でももう大丈夫、そこの男の子に感謝なさい」
遅れて後から出てきた男性医師も同じように彼女の肩にポンと手を置き、そのまま看護師と同様その場からいなくなる。
騒々しかった現場がとたん、静まり返る。思い出した頃、緊張の糸が切れたのか、彼女はすとん、とベンチに座り込んだ。
「………よかった……」
背中をさすってやる、でも、頭を撫でてやる、でも、ない。その二つを頭の中で思い浮かべて左右に首を振る。下心はきっと功を奏さない。
だから黙って傍にいた。
首のくれたTシャツに、薄手のパーカー、よれたジャージ。その小慣れた見目がこの病院にどれだけの間いるのかを物語っているのに、決して魅力をそそらない服装だと言うのに、それでいて、彼女の存在は際立っていた。
パーカーから覗く肌も、桃色の唇も、背中まで伸びた櫛を通してなさそうながさつな髪も。一連を辿って左目の泣きぼくろに気がついたとき、猫目に魅入られていると知る。
「…ありがと」
「え、あ、いや。俺なんもしてない。足折れてるし」
ぴこん、と脚気みたくギブスを持ち上げる。も、痛くてすぐさま下ろす。
「でも、人を呼んでくれた」
「助けを呼ぶのは誰にだってできるだろ」
「それが出来ない人間だって世界にはいる」