「セナ、先生に状況伝えといて。あと部屋のみんなには今日はもう終わりって」

「わかった。ストレッチャーは」

「いらない、このままあたしが運んだ方が速い。走って!」


 慌ただしいまま、長はすぐさまその場を弾かれたように駆け出し、少年もまた逆方向に走ってぽつんと一人その場に残された。

 でも発見したのは俺な訳で、すぐさまそのあと他の患者が呼んでくれた看護師が駆けつけてどうしたかを座り込んだままの俺に尋ねるから、俺はとりあえずたったついさっきまで起こっていた状況を説明し、一拍遅れてあの彼女が向かった場所に向かうことになった。









 集中治療室。

 その前のベンチに、彼女はいた。
 姿勢を正して座る彼女は俺に一瞥をくれて、俺もまた彼女を見ると、少し離れた所に腰かけた。

 直立一足歩行はやっぱり生活がしづらい。人間失って初めてそのものの大切さに気がつくものだ。

 集中治療室の「使用中」赤ランプは、天井の暗がりを煌々と照らしている。


「…たすかった」

「え、」

「さっき。よく逃げ出そうとするんだ。小児病棟が嫌いなのか苦手なのか。今日が初めてじゃなくて。多分ここから出たかったんだと思う。でも体が弱いからさ、生まれつき。その度高熱出して途中で倒れてそのまま。
 ここんとこ具合良くなかったから今回はちょっとやばかった。あんたのおかげ」


 ぶっきらぼうに頭を下げられて、こっちとしてもいえ、と遠慮がちに頭を下げる。あれ。こんな喋り方だったっけ。さっきはもっと精錬されて透き通った声だったのに、いや事態が事態だからか?

 低く無機質な声は女とは分かれどもハスキーってやつで。鼻先までかかる長い前髪、背中まで伸びた黒髪を見てから、人違いかなぁなんて首をかしげる。