歩道橋の真ん中に立ち、私はその塀の外側に身を乗り出す。
もう、この方法しかない。
助けてと叫ぶこの声が届かないなら、掛け合ってもらえないのなら、今の家に、私の家族に、───事件性を見出すしかない。
私が自殺したとあれば警察ももっと入念に家庭の捜査に踏み入ってくれるかもしれない。笠井はその口でまた全部を言いくるめるかもしれない。でも彼と離されて母が解放されれば精神疾患の疑いは晴れ、その信憑性の高さが証明されれば警察は私の自殺の元手がどこにあるかを突きとめてくれるはずだ。
大丈夫。出来る。お母さん。私が守る。守るから。
そう思うのに、青い光が私を引き留めて離さなくする。死にたくないと、そう思う。あの子に会いたいと泣いている。心が、きみに伝えたいと叫んでいる。
「星村!!」
幻聴がした。本当にそう思った。
歩道橋の階段の端、その向こうから私を呼んだ久野くんは、冬なのに、全身汗だくでそこにいた。なんで焦ってるんだろう。なんでそんな顔してるんだろう。ヒーローがピンチに駆け付けるってあれ、本当なんだな、とどこまでも冷静に微笑んで見せる。
「………なにやってんの」
声が震えていた。
何故か泣き出しそうだった。
つられて泣いてしまいそうになるのを、私は堪えて目を逸らす。
「………なんだろ」
「…危ないから。早くこっち来いよ」
「だめなの」
気がつけば、私が歩道橋の塀の外に立っているのに周囲がちらほら気付き出したらしくあからさまな悲鳴や写真を撮る音が聴こえてくる。鬱陶しい、と言わんばかりに久野くんは写真撮んな、と叫んだ。それがまた私を思いとどまらせるというのに、きみは卑怯だ。
「…夜が怖いって言ったでしょ」
「…うん」
「今でも怖いんだよ、私」
もう克服したはずなのに、全然思う通りに歩けない。歩くのは、呼吸をするのは、恋をするのは、生きていくのは、こんなに苦しいことなのか。
だったらもう手離したい。壊れる前に壊したい。自分を、それで誰かを救えることが出来るなら。自傷的だと、酔ってるだけだと言われてもいい。私はこの手でお母さんを救うんだ。伝えたら顔を左右に振られた。そんなのは間違ってる、と君は言う。
「…………生きてくのって辛いんだよ。苦しいんだよ、でもそれ全部ひっくるめて歩いてくしかないんだよ。残された人間は。俺たちには、お前にはその力があるはずだ」
星村俺はさ、と続いたときふと思う。ああだめだ。これを聞いたら私はもう踏みとどまれなくなってしまう。だから聞く前にさよならを込めて笑った。
「そんなの綺麗事だ」