子どもたちの声が聞こえてきた。
わいきゃい、と騒ぐ声に、ピアニカと思しき音。ほんと小学校の音楽の時間みたいだ、と立ち止まっていると足元に子どもがいた。
鼻にチューブを通した子が不思議そうに見上げてきて、気を取られていると「すみません」と声をかけられる。慌ててどけば、頭を下げて横を車椅子が通りすがった。
背中に大きな酸素ボンベを担いだ車椅子の少年だった。そのまま病室に戻っていく姿を目で追うと、そこに、彼女がいた。
病室のベッドに横たわった少女に絵本の読み聞かせをしているらしい。ベッドの周りは彼女を取り囲むようにして多くの児童で溢れ、彼女の言葉に耳を傾けている。
澄んだ声が聴こえる。
「“アナグマは死ぬことをおそれてはいません。死んで、からだがなくなっても、心が残ることを、知っていたからです。”」
壁に寄り添い、そっと目を閉じる。
真っ白な部屋に、風を受けて膨らんだカーテンを思い浮かべる。
「“夜になって、アナグマは、家に帰ってきました。月におやすみを言って、カーテンを閉めました。それから…”」
物語の続きを待っていたのに、突然声が事切れた。
なんでだと思い、身を乗り出す。前のめりになり、病室を盗み見たところで、
─────────彼女と、 目が、あった。
「やべ」
思わず口を手で塞いで顔を引っ込める。まずい。今のは絶対バレた。慌てて松葉杖の柄を握りUターンする。心臓がばくばくと鳴って痛くても、それでも離れた。見つけられてはいけない気がしたからだ。
ある程度病室から離れて、追っ手もないとわかれば速度を緩める。緊張が解けた途端くぅ、と腹が鳴り、時計を見れば丁度昼を回ったところだった。そりゃ腹も鳴るわけだ。