「明日コッテリしごきの刑だな」


 スマホを掲げてニヤリと笑う彼に、私も笑う。気が抜けてうっかりまた泣きそうになるのを隠すために、さりげなく俯いた。

 その頃日本は冬至を過ぎて、太陽が出ているのが一番短い時期だった。夕方になれば当然のように日は早く沈んでしまい、空は夜を連れてくる。昔は怯えた。今はもう怖くない。

 それよりもっとずっと私たちを脅かすものがある。


「…久野くんは」

「んー?」

「あの夜が怖くない?」


 気が付けば、昔あの子に投げかけられた質問を思わず口に出していた。
 夜はもう怖くない。でも、あの向こう岸の見えない暗闇はどこか、今、家をせしめる「悪意」と同じ色をしている気がした。

 幸い、誰かにメッセージの返信をしているのかスマホを眺めたままの彼はそんなに話を聞いていなさそう。だから意味もなく、何も求めず、独り言のように続ける。


「…私は怖くて。昔は見ていられなかった。油断したら、あの闇に取り込まれてしまいそうで。そしたらもう光のない世界にずぶずぶって沈んでくの。バカみたいかもしれないけど、ずっとそう思ってたの」

「…」

「………光なんてあるのかな」


 涙声が震えてるのに気づいて、その時は暗闇に感謝した。あんなに憎かった夜に、助けられる日がくるなんて。刹那的に笑って、自分の感情には暗闇のベールをかける。


「───なんて。忘れて。今のは、」



「どんなに暗い夜だって、必ず明けて朝が来るよ」