光がある。それは真夜中に走る流れ星のような。道を示してくれる月明かりのような、一条の光。


「おはよう星村」


「ぉ、おはよう」

「おっはー恭平」

「おーヒデ! なあ見たかよ昨日の原田のKO戦」

「観てね〜! てかお前ほんっとプロレスとかボクシング好きなー。それよりラグビーだろRWCL! …ねえこれってなんの略?」

「ラグビーワールドカップリミテッド」

「よっちゃんおすおす。因みにプロレスとラグビーどっち派」

「勉強してた」

「「聞いてね〜!!」」


 高校三年生の秋、席替えをした。

 それは高校生活最後を飾る一大イベントの文化祭が終わり、いよいよ四ヶ月後の受験を待つのみとなった私たちに向けた担任からの計らいで、初めはくだらない、と騒いでいたクラスメイト達も結局大いに賑わっていた。

 そこで誰もが羨む俗に言う“不良席”、窓際一番後ろの席になったのが久野くん。久野恭平くんだ。

 カーキ色の髪をした背の高い男の子。彼は登校するなりいつも通り連んでいる友人二人と他愛無いやり取りを繰り広げてから席に着き、一限目の授業の教科書───とは、違うノートを出してから私を見てぱちん、と合掌した。


「悪い星村」

「大丈夫だよ」


 持ってこようとは思ったんだよ、確かに入れたはずなんだけどな? とか鞄を漁りながらひとりごちる久野くんにくすくすと笑って、やっぱりないと分かれば諦めて彼は隣である私の机に自分の机をくっ付ける。

 こんな風に久野くんが教科書を忘れた日、私の机に彼が机をくっつけるようになったのは、席替えをしてから三日目のことだった。

 同じクラスでも一度も喋ったことはない、でも決まって同じ面子とはしゃいでいて、少しやんちゃで忘れっぽい。隣の席から解放された女の子が大いに喜んでいるのを見たあと、“次の隣の席”となった私に忠告してきたのは、その子だ。

「あっちゃ〜…最悪だね星村さん、隣、久野じゃん」

「え? 何かあるの?」

「気をつけなよ〜あいつマジ教科書とプリント類持ってこないから。その都度教師にバレないよう教科書貸し借りしてさ、この時期に有り得なくない? あいつ自分が推薦決まってっからって注意力散漫すぎ」


 一回貸したら味をしめるから絶対無視だよ! と言ってくれた前・隣の席の子のアドバイスも虚しく、私はいざその状況に直面するとすんなり教科書を貸してしまった。男の子に懇願された経験は今までになかったし、何より私は言い返すほどの覇気を持たない、気が弱い人間だったのだ。

 でも、それが逆に結果として功を奏したと思う。