「うちの学校、生徒は部活・同好会入部必須なんだよ。バリバリやんのは嫌だった、そもそも別に部活強い学校とかでもないし。で、入ったのが将棋同好会」

「部員は」

「三人」

「軟弱者め」


 大部屋の他の寝台は、他の老人が戯れていた。

 それぞれみかんを食べたり、新聞を見ながらイヤホンでラジオを聴いていたり。それこそ有料テレビで将棋の番組に没頭する者もいたりで、老人とあっても、男はあまり変に群れたりしないで単独行動をする傾向があるのかもしれない。

 じいさまに連れられて入ってきたときは異国民でも見るような目でじろじろと見られたが、じいさまのベッド脇で将棋に勤しむ今、その目も通常運転に戻りそれぞれの職務を全うしている。


「中学の頃は剣道やってたんだ、なんかその頃から身長ばきばき伸び出して抜きん出てるのが嫌で猫背でいたら、姿勢悪いって先公にドヤされて。んでもって厳しいもんだから学校から帰ったら夕食後死んだように寝てまた朝練。
 高校はそうなってやるもんかーって思ったわけよ、彼女も欲しかったしねー。ま、高校三年間過ごしてもうそろ卒業手前、未だに出来てねーけど」

「上々だ。何事も生半可で成果は出せない。王手」

「あっ、くっそー! また負けた!」

「日頃の怠慢の結果だな」


 低い声でくつくつと笑われて、渋々患者衣のポケットから100円を取り出して貯金箱の中に入れる。黒のボディで中身はわからないが、金貨の落下音からして中身は相当入っていそうだ。じいさまは日頃、暇を持て余しては相手を見つけ、貯金に勤しんでいるらしい。


「食えねーじじいだな、初心者なんだから加減してくれよ」

「初心者? どの口が、ルールを知って対局出来るとあれば十二分に一端だ。加減は無用」

「あら侍。八百長はお嫌いですか」

「イカサマもな」

 胸ポケットから予備の駒を掠め取られる。苦笑いしたら、その手でごつんと額に拳をくらった。痛い。

「じいさまいつもこーやって相手見つけて金せびってんの。強すぎて相手も相手にならねーんじゃいい商売ですね、あと高校生から助言しとくと友だち失くしますよ」

「いい鴨なら目の前にいる」

「標的にされたよ」


 俺だってコンビニバイトで稼いだなけなしの金しかないってのにあんまりだ。退院する頃には素寒貧だぞ多分。