海が見える港町へたどり着いたのは、午後4時半。まだ日が沈むまでには時間がある。

 港町は僕が済んでいる場所とは180度違う、政令指定都市だ。人口は僕の町の30倍くらいはある。いや、もっとかな。


 私鉄の駅から海までは本当はバスが楽なんだそうだけど、僕は持ってきていた地図を参考に、自分の足で歩く。途中には僕の興味のない女子向けのアクセサリーやガラス細工のお店がたくさん並んでいた。

 もしもサユミが、ちゃんと約束を守る女なら、買ってあげたんだけどな。

 でも……。

 朝から夜まで、夏期講習に励むサユミの姿を想像する。
 ムカつく女だけど、根性だけはある。きっと泣き言も漏らさず、偏差値を少しでも上げるために、今頃は……。

 いつしか僕は、一番入りやすそうなアクセサリーのお店に入って、サユミの好きな赤色のブレスレットを買ってしまっていた。

「まるで大人の男ね。きみ、きっと素敵な大人になるわよ」

 店員の女の人に言われたその言葉が、無性に嬉しかった。
 僕は大人なんだ。