子供の問題に親が口を出す。どうしてそんな馬鹿げたことをと感じるが、あまりにもよくある出来事で、俺たち子供は泣き寝入りするしかなくなるんだ。親っていうのは、口出しはしても、その後の後始末はしてくれない。
 俺の親は、試合があっても見にきてくれなかった。俺にとってそれは、嬉しいことだ。余計な口出しなんて、して欲しくない。俺たち五人の中では、ケンジの親だけが顔を出していた。ケンジの親は、子供に関心があるっていうタイプというよりも、単純に野球が好きだったんだ。
 ケンジの親は、両親共に熱心だった。父親は、ケンジに対してだけでなく、俺にも口を出してくる。ああした方がいいだとか、もっと真剣に取り組めだとか。それはそれで構わないが、その後の展開がよくなかった。ケンジの両親こそ、もっと真剣に取り組んで欲しかった。
 俺たちを指導していた監督が年齢を理由に辞めることになった。それが悲劇の始まりだ。ケンジの父親は、コーチではなかったが、まるでコーチのように振舞っていた。次の監督が自分になるんじゃないかとさえ考えていたようだ。しかし、そんなことにはなるはずもなかった。監督の甥っ子がチームのコーチだった。そのコーチが次期監督になることは、誰がみても明らかだったからな。
 ケンジの父親もそうだが、その人事に最も反対したのはケンジの母親の方だった。あの人が監督になるなんて、絶対に許せない。なんとしてでも阻止しなくてはと、親連中に声をかけまくった。うちの亭主を監督にするべきだとの説得をしながら。俺の親は無関心だったが、中にはケンジの母親に乗っかる親もいたんだ。そして、勝手に監督候補に名乗りを上げたことになり、二人の争いが始まった。
 どっちが新監督になるのかは、初めから決まっていた。ケンジの両親は、勝手に騒ぎ、勝手に盛り上がっていただけだ。そもそも、次期監督争いなんて存在していなかった。次期監督は初めから、甥っ子が勤めることに決まっていたんだ。
 それでも一度火がついた親連中を鎮めるのは難しい。
 ケンジの母親の勢いは止まらず、数の上では監督の甥っ子の支持を上回った。
 しかし、そんなことは御構い無しに、なんの前触れもなく監督は交代された。それに怒ったケンジの両親は、練習にも全く顔を出さなくなった。なにやら監督に文句を言ったようだが、まるで相手にもされなかったらしい。その他の親連中は、何事もなかったかのように新監督にベタついていた。掌返しが上手いんだよ。
 ここまではまぁ、よくある話だ。ケンジの両親はケンジに野球チームを辞めろと言ったそうだ。俺ならきっと、その指示に従うね。しかしケンジは、辞めなかった。それがいけなかったんだろうね。新監督は、あからさまにケンジを虐めたんだよ。それもかなり陰湿な方法でね。