文化祭というかこういう大きなイベントは、教師にとっては余計な仕事が増えて、日常業務にかなりの支障をきたす。
だが、生徒達のわくわく感を感じるのはやはり良い。
邪気は、楽しい、嬉しい、幸せという『陽』の感情に非常に弱い。
だが『陽』がある以上それと対をなす『陰』も必ず存在する。
それは踏まえた上で行動しないといけないのは、普通の教師では無いところかも知れない。
「藤原先生!」
廊下を歩いていたら、背後から女子生徒達がそわそわしながら声をかけてきた。
「どうした?」
「あの、今葛木先生に文化祭用のお菓子作り教えてもらってて、これ出来たばかりのなんですが味見してもらえませんか?」
そういうと、一人の生徒が可愛くラッピングされた小さな袋を差し出した。
「へー、じゃぁ一つもらう」
それを受け取り袋についたリボンをほどくと、中にはハートのクッキーが何枚も入っている。
一つ取って口に入れようとしたら、生徒達が俺を囲みながらきらきらした目で見上げている。
『食いにくい・・・・・・』
苦笑いが浮かびつつ口に入れた。
「お、美味いぞ」
「ホントですか?!」
「世辞なしに美味い」
生徒達は手を取り合ってきゃーきゃーと喜んでいる。
誠太郎の手ほどきも良いのだろうが、生徒達が頑張って作った品だというのが伝わり笑みが浮かぶ。
「残りはおやつにして下さい!」
「サンキュ。頑張れよ」
嬉しそうに帰って行く生徒達を見てから、さて行くかと進もうとしたら、教室のドアから男子共が不服そうな顔をして出てきた。
「藤原だけずるいだろ」
「役得だ。諦めろ」
「ひでぇ」
こういう年齢の女子への屈折した思いは見てて面白い。
「残りいらないなら俺らにくれない?」
「やらん。
欲しいなら直接女子に下さいって言いに行けば良いだろ」
「それが出来るならやってるって!」
「まぁそうだろうな」
ほんとこいつら可愛いな。
肩を落としながら男子共はぶつぶつと文句を言っている。
「藤原といい、葛木先生といい、二人がいるから俺らへの配分が減るんだよ。
加茂ってハーフまで増えて余計に配分減ったしさ」
「人のせいにすんな。
それに女子はそんなに外見とか気にしないぞ?」
「うわぁ、イケメンに言われるとマジでムカツク」
今度は全員から殺意溢れる目で見られる。
本当の事なんだがまぁまだ無理か。
「とりあえず頑張れ」
手をひらひら振ってその場を離れる。
さっきの女子達が『陽』とすれば、さっきの男子達が『陰』だろう。
別にどちらが良い悪いというものではない。
あって当然のもので、むしろそういうのがない方がおかしい。
ここの生徒達は特殊な条件下で選ばれているものが多いせいもあるが、素直な感情の生徒も多くて見ていて純粋に可愛いし面白い。
出来ればこの心を持ったまま成長して欲しいと、自分を省みて思ってしまった。
文化祭当日、早朝から出勤し対応に追われる。
この学園が特殊ゆえ、こんなにも不特定の外部の人間が入ってくる場合は、不審者対策の意味が違ってくるのだ。
通常清められている学園内もどうしても気が濁る。
それを学園の陰陽師達がチームになり、結界の補修、浄化の追加、不審な人間や式などが居ないか監視する。
なので外部の陰陽師達も加勢に来るので指示を行わなくてはいけないが、そういうのは全て誠太郎に任せていた。
一通り自分の仕事を終え、休憩がてらいつもの自室に戻ろうとドアを開けようとした。